さて、最終討論で述べられた意見は、どのような観点から検討すべきなのか。
基本中の基本ですが、次の3点について、信頼できるデータに基づく根拠があるかどうかですよね。
① 出発点である現状の把握は的確なものであるか。(スタート地点は?)
② 達成したい具体的な状況と、それを実現するための時間軸の長さは、適切に設定されているか。(ゴールは?)
③ ①を②へと導く手段は、ありとあらゆる方法を漏れなく比較した上で、最適なものが選ばれているか。(プロセスは?)
出発点である現状の把握は的確なものであるか?
横山のぼる建設企業委員(公明党県議団)
「現在でも、宮城県の水道料金は、全国平均に比べて極めて高いという課題もあります。こうした状況を踏まえれば、水道事業の改革は、全国的にも急がれる課題でありますが、特に本県にとっては待ったなしの課題であると考えます。」
「今年の出生数が初めて90万人割れをするなど、日本の人口減少は我々の想像以上のスピードで進んでいます。この急激な変化に対応していくために、いま水道事業の改革に着手をしなければ、未来に禍根を残すことになりかねない」
「受水市町村からは、できるだけ早期に改革に着手し、水道料金の卸値を抑制してほしいとの声が上がっております。こうした声が聞かれるのは、市町村の水道事業がすでにひっ迫していることの表れ」
このご意見を一言でまとめると、
宮城県は今すぐ水道事業の改革に着手しなければ大変だ!
ということです。
給水人口の減少や老朽化した管路の更新需要の増大は、全国どこでも問題だけれども、宮城県はもともと水道料金が高いのだから、待ったなしの状況だ!
だから今すぐみやぎ型管理運営方式を導入すべきだというご主張です。
焦るお気持ちはよくわかります。ですが焦っている時こそ、間違った方向に猛ダッシュで走り出してしまっていないか、いま一度気を落ち着けて冷静になる必要があります。
まずは、大規模災害時のトリアージのように、優先的に着手すべきことは何なのかを、見極めることが重要です。
それは、横山のぼる議員のお言葉にあるとおり、「市町村の水道事業がすでにひっ迫している」ことへの手当てですよね?
「みやぎ型管理運営方式に係る 県の基本的な考え方について」より
みやぎ型管理運営方式の対象事業は、上図の赤線で囲まれている部分ですが、それ以外の市町村水道事業、公共下水道事業(市町村)こそが、すでに、水道職員の確保も困難なくらい疲弊している現状があります。
もしみやぎ型管理運営方式で県からの水の卸値を抑制できたとして、それでもう、この市町村の水道事業の問題は解決するのでしょうか?
岸田清実建設企業委員(社民党県議団)
「改正水道法が全国の都道府県に求めているのは、今後ますます事業継続が困難になりかねない市町村の末端給水事業の基盤強化です。」
「県内の自治体で技術系職員がいない所も珍しくありません。」
「市町村水道の基盤強化のあり方をしっかり固め、それとの関連で県営水道のあり方を選択していくことが必要」
「給水事業の広域連携が進んでいないにもかかわらず、県営水道3事業を先行させて一体化し、20年間運営権を売却することは、市町村水道の広域連携による基盤強化に、支障さえ来たすのではないか」
岸田清実議員が指摘するように、「技術系職員がいない所も珍しく」ない「市町村の末端給水事業の基盤強化」 こそが、真っ先に考えるべき喫緊の課題ではないでしょうか?
「みずほ塾 in 仙台×水道 『イチ』から知りたい水道民営化 みやぎ型管理運営方式ってなに?」で、岸田清実議員は、次のように述べています。
いま宮城県は、市町村水道の支援は、ほとんど進んでいない。
一方で、県水道をコンセッション化するということだけが進んでいる。
「手を挙げたところは、県のコンセッションに入っていいですよ」と村井知事は言っているが、広域連携をしようとする時に、ある特定の自治体だけが県のコンセッションと連携していたら、他の市町村との連携は置き去りにされ、むしろ広域連携を阻害することになる。
本当は県が、広域連携、広域化にしっかり取り組んで、その進行具合に合わせて、県営水道をどうしていくのかを考えていくのが、そもそもの順番ではないのか。
皆さんの家庭の蛇口に水を届けている市町村水道を大事にするのが、県の役割ではないのか。
そこを置き去りにして、県営水道だけ、しかも、県民や自治体の理解なしに、コンセッションに突き進んでいくというのは、あまりにも乱暴だと思う。
お隣の岩手県では、花巻市と北上市と紫波町がそれぞれ単独で水道をやっていくのは もう駄目だということで、この3つの自治体が1つの企業団を作って水道事業をするという広域化をして、統合から4年間で約76億円の投資削減を実現しています。
宮城県がすすめる「水道民営化」を問う市民集会 資料11ページ
宮城県にも下記のような水道広域化の計画がありました。
水ジャーナリストの橋本淳司さんは、「この1977年の計画を今やる必要がある」と言います。
「県がやりやすいところだけをコンセッションするのではなく、県民と共に、数十年先を見据えた宮城県全体の水道の青写真を描いたうえで、広域的にやっていくことが重要だ」と。
宮城県の環境生活部食と暮らしの安全推進課環境水道班に問合わせたところ、「宮城県広域的水道整備計画」(1977年)は、石巻地方広域水道企業団として一部実現しており、これを踏まえたうえで、平成31年1月11日に設置された宮城県水道事業広域連携検討会を行っているとのことです。
ここでは、「県内の市町村及び企業団における水道事業の経営健全化を図ることを目的に広域連携等を含めた具体的な方策を検討する」とされています。
市町村水道の危機に対応するために、是非とも早急に、充実した成果を上げていただきたいものですが、こちらよりも先にみやぎ型管理運営方式を導入することによって、「市町村水道の広域連携による基盤強化に、支障さえ来たすのではないか」と岸田清実議員は懸念しています。
達成したい具体的な状況と、それを実現するための時間軸の長さは、適切に設定されているか?
「現在検討され、公開されていることのほとんどが、20年間に限ったことで、21年目以降がどうなるのか、まったく漠然としています。」
「30年、50年、100年先までも、安心安全事業が継続されなければなりません。20年間だけを切り取っての検討は、無理があります。収支シミュレーションも20年分がやっと公開されたばかりです。」
建設企業委員会(2019年12月13日)で、福島かずえ議員が「(みやぎ型管理運営方式の契約が終了する)21年後はどうするのか?」と尋ねたところ、企業局は 「21年後のことは検討していない」と答えています。
これはあまりにもひどいです!
直近20年間さえよければ後のことは知らないというのでは、公共政策とはとても言えません。
たとえば仙台市水道局は、下図のように80年後を見据えたグランドデザインを描いたうえで、2020年から10年間の仙台市水道事業基本計画を立てています。
第4回仙台市水道事業 基本計画検討委員会 仙台市水道事業基本計画の骨子案 3ページ
(令和元年6月25日 仙台市水道局)http://www.suidou.city.sendai.jp/nx_image/01-jigyou/01-308-1-dai4-03.pdf
県は市よりもより行政責任が大きく、より広域的長期的視野を持って事に当たるべきであるのに、無責任すぎるのではないでしょうか?
佐々木幸士文教警察副委員長(自由民主党・県民会議)
「様々な施策を持って、次の世代に引き続き宮城県の水を確かな形で託していかなければならない決断の時であります。時代の要請とともに、宮城県の未来に対する責任を決断する議案であると考えます。受益者への将来負担に対する対案なき反対を示すべきではない」
「次の世代に引き続き宮城県の水を確かな形で託していかなければならない」 と本当に考えるのであれば、21年後以降のことをしっかり調査検討しないうちに、「決断」などできないはずです。
先ほどの環境生活部食と暮らしの安全推進課では、令和2年3月末まで、広域連携等の検討の基礎情報とすることを目的に、県内各水道事業体の現状分析及び将来予測、多様な形態の広域連携シミュレーションを実施しています。
水道事業広域連携シミュレーション等調査業務仕様書には、
①事業体間の広域連携,②圏域の広域連携及び③県企業局との垂直連携それぞれについ て多様な形態の広域連携をした場合のシミュレーションを行い,シミュレーション結果からそれぞれの広域連携の効果,メリット,デメリット,課題等を整理すること。
とあります。
推計期間は、令和元年度から40年先の令和 40年度とされています。
最低でもこれぐらいのスパンのシミュレーションを行ってから考察するのでなければ、次の世代のための責任ある選択はできないでしょう。そして、このシミュレーションの結果はまだ出ていないのです。
佐々木幸士文教警察副委員長(自由民主党・県民会議)
「コンセッション方式の先進県として、民間にできることはできるだけ民間に任せるという大胆な行政改革を一層推進していくべきであり、その先例を全国に示すことは、宮城県としての魅力、価値をさらに高めるものと考えます。」
実は、佐々木幸士議員のこのお言葉どおり、「コンセッション方式の先進県として」「先例を全国に示す」ことが目的になってしまっていることこそが、今回のみやぎ型管理運営方式の一番の問題点だと私は考えています。
宮城県の水道の未来にとって本当に良いやり方は何なのかを様々検討し、県民の間でもしっかりと議論がなされた結果として、コンセッション方式が選択されたというのなら、まだ納得がいくのですが、完全に手段と目的をはき違えてしまっています。
「民間にできることはできるだけ民間に任せるという大胆な行政改革」 というキャッチフレーズの内実も精査しなくてはいけません。
民間会社の第一目的は、株主の最大利益を追求することです。その会社が提供するサービスの利用者の最大利益の追求は、第一目的ではありません。まずは、株主への配当を確保してから、残った利益で、できる範囲で利用者へのサービス高上を目指すのです。公営では、この株主への配当の分もすべて、利用者=住民のために使えます。
ありとあらゆる方法を漏れなく比較した上で、最適なものが選ばれているか?
ゆさみゆき建設企業委員(みやぎ県民の声)
「岩手県中部水道企業団では、公営のまま水道施設のダウンサイジングと広域化を推し進め、大きな経費削減効果を得ているが、これらみやぎ型ではない他の選択肢も比較検討するなどの論議が行われていない。その意味でも、十分な論議が尽くされたとは言い難く、継続して審議をする必要があるのではないかとのご意見をいただきました。」
確かに、公公連携の可能性や公営のままIoTやAIを導入するとどうなるかということを真剣に検討したという話は聞いていませんし、その場合の具体的なシミュレーションも行われていません。
「県民的な議論がまだまだ不十分です。議論するために必要な情報の公開や説明も全く不十分」
コンセッション方式にするとコストカットができる金額を、宮城県は下図のように、 マーケットサウンディングという関係する企業からの聞き取り調査によって、各費目 ごとに10%とか30%とかキリの良い数字で計算しています。
ですが、実際に企業が本気でコストカットを行うときには、一つの費目の中でも、Aを何円削減、Bを何円削減、Cを何円削減・・・というふうにもっと具体的な数値を積み上げていって、トータルで○○費目は何円削減と計算するのではないでしょうか?
一律に10%削減などと大雑把なことを言うときは、目標値を示すだけの場合です。
「期待削減率」と書かれているように、ここで示されているのは、このように期待しているという試算に過ぎず、根拠のある数値ではありません。
きちんと議論するためには、もっと具体的で信頼性のある情報が提供される必要があります。
「みやぎ型管理運営⽅式」導⼊による 事業費削減目標について25ページ
(令和元年12月13日宮城県企業局)https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/769996.pdf
横山のぼる建設企業委員(公明党県議団)
「県民や受水市町村からは、コンセッション導入により水道料金の上昇抑制効果が本当にあるのかという疑問や民間委託することで水質低下の懸念があるのではないか、またPFI事業の性質上、事業者が決定する過程で、段階的にしか明らかになっていない事柄がある、全体像が見えにくいなど様々な声が上がっている」
「みやぎ型管理運営方式に係る 県の基本的な考え方について」より
(令和元年11月18日 宮城県)
このように、基本協定書(案)、実施契約書(案)、要求水準書(案)、モニタリング基本計画書(案)といったみやぎ型管理運営方式の非常に重要な内容は、これから公表されていきます。
具体的な内容がわからないまま、「他の方法よりも素晴らしいはずだ」と言われても、中身の見えない福袋を「お得ですよ」と勧められているようなものです。
お正月の福袋は、金銭的にゆとりのある方だけが買うので、外れだったとしても大目に見てもらえますが、県民の命に関わる水道事業で、そんなイチかバチかの賭けを容認してもよいのでしょうか?
せめて、これらの案が公表された段階で、それぞれについてパブリックコメントを実施し、県民の意見や議論に耳を傾けるべきだと思います。
佐々木幸士文教警察副委員長(自由民主党・県民会議)
「施設の所有権や水質維持、災害時の対応、料金改定を含めた事業継続上の重要な議論については県が責任を持ち、また第三者機関による厳正なモニタリングも行われるものであります」
その内容自体が確定していない今の段階で、どういう根拠に基づいてこういった断言をなさっているのでしょう? 希望的観測をおっしゃっているだけなのではないでしょうか?
「人々の生活、命に関わることに、決して失敗は許されない事業であります。担う民間企業にとっても、社名にかかわる事業となります。その覚悟を見定め、これからも安心安全を作り守る責任は、引き続き宮城県に、さらにはこの議会にある」
のであれば、まずは、それを裏付ける情報公開を徹底していただきたいと思います。
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