宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

江成先生のなぜ? なに? 下水道講座    下水道の不思議なヒミツがいっぱい!     前編 「下水道システムと下水処理の仕組み」

2020年7月4日、宮城県民会館4階にて、「宮城県の水道民営化問題を考える市民連続講座第1回 江成先生のなぜ? なに? 下水道講座 下水道の不思議なヒミツがいっぱい!」が、命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ主催で行われました。

宮城県の水道民営化問題 下水道講座

 

開会の挨拶 命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ 佐久間敬子 共同代表

昨年12月17日の県議会で、公営でやっていた水道事業を、民間がやれるという条例の 改正案が成立してしまいました。私たち命の水を守る市民ネットワーク・みやぎは、「拙速な決議は止めて、せめて継続審議を」という325筆の団体さんの署名を2週間で 集め、県に請願を行いましたが、残念ながら、これは顧みられることはなく、条例の 改正が成立してしまったという経過です。

この請願運動の中で、私たちが大変力強く思ったのは、賛同してくださった方々が多種多様な団体であるということです。特に、生産現場におられる方や小売業者の方、それから歯医者さんですね。こういう方々がかなり大勢賛同しておられたということで、 私たちの運動のすそ野は広いんだなということを実感いたしました。

そいういう中で県はスケジュールに沿って、もうまさにこのコロナ禍を顧みず突っ走っております。

お配りした資料の中に私たちの運動の経過を書いてありますので、後ほどご覧になっていただければと思いますが、この条例が改正された以降の運動をどういうふうにするかということで、みんなで意見交換をしました。その時には、県が説明責任を果たしていないということは、県が重々知っていることなので、今後も各地で県が出向いて行って説明させること、それから、今回の水道事業のコンセッションという方式ですけれども、県から水を買っている市町村は25ありますが、この受水市町村の議会、あるいは 水道マン、住民のみなさん、なかなかここがわかっていないんではないか、こういう 受水市町村でも議論を活発にしてもらいたいということで、2つの方針が決まったんですが、コロナの問題でこれがなかなか実行できないということになってきました。

私たちはこの間もいろいろ勉強しているうちに、これまでは上水道に関心があったのですが、やはり下水が大切じゃないかと思いいたりました。下水の数値が悪くなった場合に、これが排水される流域の環境がどうなるのか? 特に漁業者はどうなるのか? というようなことに気が付き、コロナの問題もあって公衆衛生の重要さも改めて実感しました。

下水のことを勉強したいと思っている中で、今日講師にお願いしました江成先生をご紹介いただきまして、事務局でZoomでの学習会をしました。大変良いお話で、これを みなさんと共有したいなと思いまして、本日はこのリアルの学習会ということで設定 いたしました。

江成先生は、東北工業大学名誉教授、水質環境工学がご専門で、現在、宮城県環境審議会の水質専門委員というまさにエキスパートでいらっしゃる。先生のお仕事の前半は 活性汚泥法というものの研究を、それからその後は、環境情報工学というちょっと私にはよくわからないのですが、廃水処理の問題を研究されたということです。先生には 教え子が沢山いらっしゃって、宮城県の現場で働いていらっしゃる方もいます。

先生は流域環境をやっておられて、市内の川の水質調査をやって、1ミリの川は創造事業、1ミリの川で一つの形が出来上がっているということです。

一番感銘を受けましたのは、先生のモットーです。 ”Think globally, act locally”  世界的な視野で物事を考えて、その成果は私たちが住む地域社会の中で実践するということだと思いまして、私たちが漠然と言葉にはできないんですが考えていたことが、この モットーにあらわれているのではないかと。

それからもう一つ。私たちは6月10日に県に公開質問状を出しました今回は、私たちの事務局の小川さんからその解説をいたします。

この際には、公開質問状の内容を説明して、県の担当者とデスカッションをしましたが、面白いことが2つありました。

1つは、県の担当者は「民営化」という言葉を極度に嫌っています。私たちは、少なくとも県といろいろ話をするときには、「民営化」という言葉を使っていません。まあ、こういう学習会を開いたりしますし、新聞は「民営化」ですね。朝日新聞なんかは、「水道は民間に売却する」と言っていますから。それに対して県の担当者は非常に抵抗感があるということですから、これをどういうふうに使っていくかということですね。そして、実に意外なことに、県の担当者は、「これは民営化じゃないんだ。これまでの業務委託とか、指定管理者制度のちょっと広げたもの」と言います。それで小川さんが、「そのコンセッションというものを、知事の今期の政策の1丁目1番地で、全国に 先駆けて実行しようとなぜ言うのか?」と反論しましたら、「そこはもうちょっと変えたい」と言いました。奇異に思いました。

それから、2つ目は、民間が失敗したらどうするんだ? ということですね。それに ついて、「契約をして縛るから絶対大丈夫だ」という契約神話、これに県は縛られている。TPPとかPFIとか民間に業務委託をして失敗した事例はいくらでもあるんです。企業は倒産する。日本でも、北九州とか福岡でそういう事例がありまして、結果的には市・県が、県民のお金=税金を使って買い戻すわけです。 イギリスでは、カリリオンという非常に大きな会社が学校や刑務所なんかの運営を任されていた。そこが2008年1月に 倒産した。借入金は、国が210億円の税金を使って事後処理をしている。これを機に、イギリスの特に労働党ですが、コンセッション・PPPは全然意義がない、むしろ割高だということで、再公営化の動きに大きく舵を切っている。こういう状況ですので、さっきの江成先生の ”Think globally, act locally”「世界的に物事を見て、それを私たちの大切な地域社会で生かす」ということが、一つの参考になるかと思います。

このみやぎ型管理運営方式というのは、知事がホントにすごい思い入れで進めているんですね。その知事がどういう発想、体質の人なのかということがよくわかるエピソードが一つあります。いま公立高校のクーラー設置の問題が県で議論になっていますが、 知事は、「財政的な問題でエアコンの設置は難しい」と。宮城県は非常に成績が悪いんですね。調べたら、宮城はワースト3位。そして河北新報の記者の方、私たちが公開質問状を出した時に知り合いになった方ですけども、「知事は民間への水道事業の運営権売却など新しい事業に次々と手をかけるけれども、教育には全く関心がない」と。教育だけではないですね。「県民の生活に直結することについて関心がないのではというふうにちょっと思いました。

以上ちょっと長くなりましたが、今日はそういう意味で下水道の講座を学習して、それから公開質問状で私たちが県に問い詰めていることをよくご理解いただいて、7月13日までに文書で回答があるようにしていますので。回答についてはこちらでアクションを取っていくと考えています。今日はどうぞよろしくお願いします。  

 

下水道システムと下水処理の仕組み 江成敬次郎 東北工業大学名誉教授 

 

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f:id:MRP01:20200708205831j:plain            「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

下水とは、現在の法律上の定義は、生活もしくは事業(耕作の事業を除く=農業廃水は下水に含めていない。)に起因し、もしくは付随する廃水(以下「汚水」という。)または雨水。

つまり、汚水と雨水を総称して下水という。総称という言葉はなかなか便利で、汚水だけを下水ということもあるし、雨水だけを下水ということもあるし、それが一緒になったものを下水という場合もある。

下水道とは、下水を排除するために設けられる排水管、排水渠(きょ)、その他の排水施設(かんがい排水施設を除く。)と、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設(し尿浄化槽を除く。)、それに付随する施設の総体をいう。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 


古墳時代に、雨水を排除する、つまり自分の住居のまわりに雨水がたまるといろいろと生活上の不便さが出てくるので、雨落溝(あまおちみぞ)というものが設置されて、古墳時代の住居の跡から確認されている。

藤原京平城京の時代には、街づくりの一環として道路側溝が存在していた。

平安時代になると、高野山に水洗便所が設置されていたということが明らかになっている。

安土桃山時代「太閤下水」は、大阪の市内に今も一部が残っていて、現在でも下水道として使われている。それぞれの屋敷の裏に井戸が掘られていて、そこにそれぞれの家庭からの排水や雨水が流れるようになっていて、近くの河川に流すという仕組みの背割下水(せわりげすい)ともいわれるものが作られていた。

  

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

近代的下水道とは、法的にその目的が定められて、それに基づいて建設された下水道

明治32(1899)年、旧下水道法(現在の下水道法の一つ前の下水道法)が制定され、この法律の基づいて行われた事業が近代的下水道。

この旧下水道法の目的は、土地を清潔に保つことつまり、下水の排除を良好に保つことによって、雨水による浸水を防止、停滞した汚水による不衛生状態を改善する(ペスト、コレラなどの伝染病発生の防止)、そして都市の美観を損なう居住条件の悪化を防ぐことだった。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

当時は水系の伝染病ということで、最初は水道の建設が行われ、その後、下水道が作られた。これは日本だけではなく、この前にヨーロッパでもこういう状況があり、それをきっかけにヨーロッパでも下水道建設が広がった。

水系伝染病の発生・蔓延に加えて、明治20年代に主要都市への人口移動が活発になり、それを受けて環境整備法が必要だということで、明治33(1900)年に汚物掃除法と下水道法が制定された。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

 

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         「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

当初は下水を排除するために下水道が作られたが、下水の処理が全く顧みられなかったというわけではない。

はじめは、処理をしないで放流先に出して、放流先の浄化能力によって水がきれいになることを期待していたが、放流先の水質が悪化した。ヨーロッパでも基本的には同じような状況でスタートしたが、ロンドン市街の下水をテムズ川に流したところ川水の汚れがひどくなり、議会にもそのひどい悪臭が入ってきてとても審議ができない状況になった。

そこで沈殿処理が行われるようになった。水の中の比較的大きなもの、重たいものを沈殿させて、その上澄みを流すという沈殿除去が最初に行われた。

しかし、それだけでは浄化が足りないということで、ヨーロッパでいろいろな実験的が試みられ、汚水に空気を送り込む(曝気する)ことによって汚れ(有機物、今の指標であるBODというもの)が減少する結果を得た。この曝気をすることによってできた汚泥(微生物の塊)をもう一度循環して使用すると、効率が良くなるという実験結果も出たので、その考え方を取り入れて1917年に実プラントが建設された。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

これは現代の下水処理の基本的なフロー 。下水は左から入ってきて、沈砂池に入って、それから最初沈殿池に入り、水中の浮遊性物質の沈殿除去が行われ、次の生物反応層(エアレーションダクト=曝気槽ともいう)水の汚れであるBODを除去・分解をして、ここで活躍した活性汚泥と呼ばれる微生物は、最終沈殿池で沈殿分離する。生物反応槽で汚れを除去するために働いている微生物は、そのまま自然水系に入ってしまうと、いろんな活動をして水の汚れにつながるので分離する必要がある。最後に、上澄みを塩素処分して放流する。

昭和の初めぐらいになると、戦争の時代に入ってしまい、下水道事業は、ほとんど進展していない。

 

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より 

 

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

昭和30年代はまだトイレの水洗化が進んでおらず、1本のパイプで汚水と雨水を排除するほうが工事費が安上がりだった。

雨が少ない時は汚水だけが流れて排除される。下水処理という考え方は、まだ主要にはなっていなかった。基本的には河川のほうに排除する。河川では量が適当な状況なら、河川の栄養になって、それで河川の生物が育つということもあった。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

今でも基本的には写真のシステムが使われている。これはレンガ下水道と言って非常に立派なもので、見学コースになっている。市の下水道課にお願いすると見学させてもらえる。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

1967年、公害対策基本法の改正で、下水道の目的として公共用水域の水質保全ということが加えられた。公共用水域というのは、河川湖沼海域。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

最初の汚水と雨水が同じ管渠を流れる合流式下水道は、雨が少ない時は汚水だけが流れるが、雨水が大量になるとそのまま河川に流すというやり方だった。

1970年の下水道法改正で、汚水管と雨水管を別々に設置する排除方式に原則なった。

しかし、すでに合流式下水道が整備された地域では、財政的に排除方式にするのが難しく、仙台も含めて全国の大都市で古くから下水道が整備された地域では、河川の汚れの問題が大きくならないようにいろんな工夫をして、現在でも合流式下水道のままになっている。

また、下水道は当初、公共下水道都市下水路(基本的に雨水だけを対象にしたもの)ということでスタートしたが、これに流域下水道がプラスされた。

 

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

地域のいろんな事業によって、公共下水道と都市下水路、流域下水道の3つを使い分けている。すでに合流式下水道が設置されているところを作り直すことはなかなかできないので、基本的には流域下水道を新たに設置する。

昭和40年ごろまでは、大都市以外に下水道事業が進展しているところはなかった。そのため、生活排水や事業所の廃水がそのまま河川に流されて、川の汚れが非常に大きくなったという経緯がある。その川の汚れを改善するために流域下水道というものが位置付けられた。

従来のような公共下水道だと、たとえば、ある町では下水道の処理をして流したけれども、上流の別の町ではそれができないということになると、河川全体の浄化がなかなか効率的に進まないので、流域全体で下水道事業を進めていこうという考え方で設けられた。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

もともと下水道は市町村単位で設置されていたが、流域下水道はいくつかの市町村に関わって下水道が設置されるということで都道府県が管理をすることになった。

ただし、幹線管路と処理施設が流域下水道につながるそれぞれの市町村の下水道は、流域関連公共下水道ということでそれぞれの市町村が管理をする

 

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

宮城県には、仙塩流域下水道、阿武隈川下流流域下水道、吉田川流域 下水道、鳴瀬川流域下水道、北上川下流流域下水道、北上川下流東部流域下水道、迫川流域下水道の7つの流域下水道がある。

流域下水道の目的=下水道の目的+公共用水域の水質保全

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より 

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

昭和42年に公害対策基本法が制定されて、公共用水域に環境基準が定められた。この環境基準とは、河川の主要な地点に環境基準点を設定して、そこの水質を定めたもの。 その水質がきちんと守られているかどうかチェックすることになっている。

排水基準は河川などに排水を流す場合に水質の規制をされるもの。

環境基準や排水基準のチェックは、環境大臣都道府県知事にゆだねられている。

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

公共用水域の水質保全都道府県の責任であり、基本的には都道府県の環境部局がこの仕事を担っている。そのために生まれた流域下水道も、都道府県の管理である。

こういうことから、問題になっている民営化で、単に処理場の維持管理ということだけではなくて、公共用水域の水質管理を 県が担っていて、この責任を持っていることとの関連で、どうできるのかという視点も必要。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

1912年の汚水を曝気する(空気を送り込む)ことによって汚れ(有機物、BOD)が減少するという実験化結果を受けて、現在の活性汚泥法が生まれた。

日本で最初に下水処理が行われた散水ろ床法活性汚泥法と同じ原理のもの。

処理の主体は、微生物集団=細菌(バクテリア)+原生動物

好気性細菌が有機物(水の汚れ)を食べるときに酸素を消費する。微生物の中には、逆に酸素があると生きていけない嫌気性微生物といものがいて、これはお酒の醸造などで活躍する。

微生物(細菌+原生動物等)+有機物+O CO2 + 微生物 + 微生物

水を処理すると必ず汚泥ができる。この汚泥を処理して初めて水が浄化されたということになる。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

水の汚れにはいろんなものがある。濁り、色、有害物質、温度も汚れの一種。

ただ下水処理で主に対象にしているのは、水の中の有機物と窒素、りん(栄養塩類)

水の中の有機物がなぜ汚れになるのか? 

有機物が一般の河川や湖沼に入ると、そこにいる微生物によって分解されるが、その時に酸素を消費する。水の中に酸素が溶け込む速度と水の中の酸素が消費される速度がアンバランスになってくると、水の中の酸素がだんだん少なくなり、水域が嫌気化して、水の中の嫌気性生物有機物の嫌気性分解をすることによって悪臭が発生する。さらに、好気性生物つまり魚などが生きられなくなる。これが水の汚れということ。

窒素、りんは、植物性プランクトンなどの栄養になるので、赤潮などが発生する。そして、植物性プランクトンは生き物なのでいずれ死んで有機物になり、有機物が大量に水の中に存在するということで、有機物による汚れがひどくなる。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

下水処理の主な対象物質とその指標

浮遊物質(土砂などの無機物質、有機物質) → SS Suspended Solid 浮遊物質(乾燥物質量)

有機物 → BOD Biochemical Oxygen Demand 生物化学的酸素要求量=水中の有機物を微生物が分解したときに消費した酸素量 

この数値を測るには、水を5日間20℃で置いておいて中の酸素がどのくらい減ったかを測定する。これが水の汚れの代表的な指標で、下水処理場などでも、水の処理の状況の度合いを測定したり、水質が規制されている放流基準は全部BODが使われている。

しかし、測定するのに20℃で5日間かかってその間に水は流れっぱなしになるので、5日後に結果がわかっても、後の祭りということになる。そういう難しさもあり、現場ではそれに代わるいろんな工夫が行われている。

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

最初に、沈砂池で土砂など比較的重たいものだけを沈殿させ、最初沈殿池では水よりも比重が大きい比較的軽いものを沈殿除去して、SS=主に濁りの部分を取り除く。そこで取り切れなかった汚れは曝気槽というところで8時間ぐらい反応を受けて有機物が分解されて、処理水と微生物を分離させるために最終沈殿池に入り、微生物同士が凝集しながら沈殿するということが行われる。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

約1時間、最終沈殿池で沈殿させると、汚泥と上澄みとに分離される。

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

現在、平均的なところでは、流入下水のBODは200~300mg/Lだが、処理水のBODは5~10mg/Lまで浄化できる。

下水道法で定められている下水処理場の放流水の基準は、BOD15mg/L。

新しい水質汚濁である富栄養化(窒素、リン)は、嫌気好気活性汚泥法で除去する。 比較的大きな処理場では、現在ほとんどこの方式を採用している。

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

 

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        「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

 

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       「下水道システムと下水処理の仕組み」講演資料より

 

処理水のBOD数値が出てくるのは5日後なので、BODの数値だけを頼りにしていたのでは維持管理ができない。それに代わる基準としては短時間に出てくる値のCODや、現場の人たちは色やにおいで把握できるとよく言っている。

 

会場からの質問

富谷市のAさん

上水道の管理よりも下水道の管理の方が本当に難しそうだなイメージを受けたんですけれども、汚泥を戻すというやり方でどのくらいの量を戻すのか、それからBODは5日間かかり、CODは短時間だけれども、色やにおいで状態がなんかおかしいよといった時に、たとえばどんなふうな工夫を現場ではされているのかというようなことを教えていただきたい。

江成先生

私もあまり現場に出ていることはなくて、現場の状況をよく知っているというわけではないんですけれども、基本的に活性汚泥法で操作できる因子というのは、いまお話になった汚泥を返送する、どのくらい返送するかは返送率という言葉で言いますが、つまり、最終沈殿池で沈殿した汚泥をどのくらい曝気槽に戻すかその戻し仕方を返送率というんですけれども、そういうものでコントロールするということをやっています。

あと、空気量を調整するということもやります。空気量というのは、酸素を供給するということと曝気槽の中の液体を拡散させるということがあります。

あとホントに現場の人に聞きますと、「色とかにおいとか、そういうものでそれなりにわかるようになるんですよ」ということを言うんですね。

実はバクテリアと原生動物で構成されているということを言いましたけれども、基本的には、そういう何種類かの微生物の混合微生物集団といっているんですけれども、それの生態系なんですね。曝気槽の中っていうのは。

生態系をコントロールするっていうのはやっぱり非常に大変ということがあります。 これはやっぱり現場の経験というものがかなり大きく影響されるだろうなとは感じています。

Bさん

今度の民営化で県から移譲するような管路は除くとされる。そうすると、県が管理している幹線管路は対象から外れるんだ、県が引き続き管理するんだ、そこをちょっと聞かせてほしい。それが第一点。

もう一つは七北田川の河口に浄水場ありましたね。震災の時に壊れてしまいましたね。そのために浄水機能がなくなりましたね。その時に湾岸に出ていった未処理の水がどれくらい汚れていたのかということを継続したデータというのはあるものなんでしょうか。

というのは、どういうことかというと、仮りに天災とかが起こったときに、これの管理は誰がやるのか、そしたら民間がやることに一応なっているのに、困った時は県がやるのだとそういうふうに表記してあるんですね。で、その間の工事の期間はどれぐらいですむのか何の契約もないんです。それを民間に責任を持ってすぐに修復させるシステムをどうやって構築したらいいのか、そのあたりを含めて、できたらBODの値がどんなものであるのかわかれば教えてほしいということです。

江成先生

えーとー、いまお話の七北田川の浄水場と言いました? 蒲生の下水処理場ですね。あれは仙台市の公共下水道の処理場です。あそこはホントに津波で大被害を受けて、あの時は沈殿処理と塩素滅菌だけで流したんだろうと思いますね。ですから、入ってきたBODと出ていったBODはそれほど変わらないですよ。沈殿ではだいたいまあ1割か2割ぐらいしか取れないですから。たぶん、あのデータ自体はとってるんだろうと思いますけれども、すみません、私、数値までは認識していないのでわかりませんけれども、幸いにと言いますかね、蒲生については放流しているすぐに流されるんですよね。内湾でないものですから。そういう点ではあまり大きな問題にならなかったというのが現実にあって、まあ、以前は処理場の事故というのはそれなりにあって、その時にも水質の問題が生じたということはないわけではなかったんですけれども、ほかの東京なんかですと東京湾に流されるとあそこは周囲が汚れるとかですね、河川の中流あたりで流れるとその河川の汚れがひどくなるというようなそういう現象は、仙台の場合は幸いにもあまり起きないと。地理的ないい条件があるんですね。仙塩(処理場)はすぐ海ですから、しかも割りと入り組んだところにありますから、そういう点ではちょっと心配がありますね。仙塩も津波でけっこうやられたんですね。

管路の話、すいません、私、あまりその辺のことはよくわからないんですけど、(司会の多々良さんに)わかりますか?

多々良さん

小川さん、答える準備はありますか? はい、ありそうですね。

小川さん

さきほど先生が図解で示されましたけど、まさに県が管理するものとして太い線で示されていたのは、基本的に県が全部所有し県が管理するいう意味で言えば、民間の管理では基本的にはないというふうになっています。

市民連合のCさん

先生のお話を聞いて、特に水の汚れという側面から見ると、大変歴史的な状況の中で生まれてくる側面というのが非常に大きいんだなと感じました。特に、私は医師ですが、BODということを久しぶりに伺って大変懐かしくまたリアルに感じることができました。

そのうえで質問なんですけど、私の友人に京都大学の名誉教授で有機フッ素化合物の血中濃度を見ている小泉という研究者がおります。彼が去年のNHKクローズアップ現代で紹介されたんですけれども、大阪の寺の井戸の水の中の濃度と、それから、最近では沖縄の宜野湾市米軍基地の周辺の住民の血中濃度が非常に高い。いずれもそれは、米軍基地の場合は洗浄に使ったものが体の中に入っているというふうなことでしたし、寺の水はおそらく大阪を中心としたダイキン工業とかああいうようなフッ素化合物を作っているところからの廃水が原因なんじゃないかというふうに考えているんですけど、そうすると、飲み水の汚染の問題と廃水の汚染つまり下水の汚染の問題というのは、これからはたぶんおそらくリンクしていくというふうに思うんですよね。つまり、下水は下水、上水は上水というような区分はおそらくなかなか化合物によっては難しくなっていくというふうに思います。有機フッ素化合物の特徴というのは、ずーっと壊れないままそこにあるというのが有機フッ素化合物の特徴ですので、そうするといくら輩出してたとえば海に流れても、またそれはいずれ汚染物質として入ってくると。そういった意味では循環の中でずーっとその化合物がとどまっていると。それがたぶんおそらく現在のテクノロジーの状況だろうと思うんです。そうすると、県が言ってるように、9事業を一体のものとしてやることについては私自身は賛成なんですけれども、しかしながら、こういう水の管理を、水の管理だけっていうのでは、たぶんおそらく決定的にダメで、たとえば治水の問題とか、それからいま言ったようなどんな企業があるいは米軍基地とか自衛隊基地が水源の近くに存在する、営業を許しているというような地域の経済政策から含めて一体のものとして考えないといけないんじゃないかというふうにいま思っているんですけど、先生はこの辺どういうふうに、私の考えが正しければ正しいと言ってください(笑)それは違うぞというのなら違うと言っていただければ助かるんですけど。

江成先生

先ほど水の汚れということで簡単にお話をさせていただいたんですけれども、実はこの問題、非常に幅広くしかも複雑な問題なんですね。

我々の生活の中にもいろんな技術が入ってきて、それを我々使ってるわけですよね。 それは基本的には全部下水に入ってまいります。つまり、一つの例としては薬なんかもそうです。化粧品もそうですし、日常生活の中で使われている有機物のいろんなもの、有機物だけでなく無機物もあるんですけれども、そういうものが全部下水に入ってくる。で、微生物を使った活性汚泥法を使った下水処理でそういうものを分解の対象にしているかというと、基本的にはそれは対象にできません。分解されるものもあるかもしれませんし、微生物にくっついて沈殿除去されるものもあるかもしれない。しかし、あくまでも対象にしているのはBODという微生物の分解可能な有機物というものを対象にしているというふうに言わざるを得ない。それ以外のものは、基本的には放流水の所では薄められて出ていく。

で、おっしゃるように海に出ていってそれが大きな循環が形成されていく中でどうなるかということについては、いまの下水の処理技術としてはほとんどノータッチと言わざるを得ないというふうに私も思っている。で、それを考えていく、あるいは解決をしていくということのためには、こういう下水処理の分野だけではなくて、もっと大きな視点からの議論なり対策というものが必要だろうというふうに思っています。

ただ、もう一つ飲み水との関係で言いますと、我々の排泄物というのは人間の体を通して出ていくものですね。ですから別の言い方をすると、人間から出てきたものというのはいろんな情報を持っているんだというふうに言えますね。いま吐く息からがんを見つけるという技術的な検討もされている。

下水に関係しての話題では、昨日か今日かの新聞で見たんですけども、東北大でコロナウィルスを下水からチェックするという、そういう具合に生物の排泄物というのは生物の中の状態を反映しているというふうなことは原理的に正しいと思いますけれども、そういうふうなものに発展していく可能性はあるだろうというふうに思います。で、そういったことも含めていろんな私たちが使っている物質の作用あるいは状態というようなものを検討していくというのは、申し訳ありませんが、将来の課題かなあというふうに思っている段階です。