宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

宮城県の水道民営化問題を考える市民連続講座第3回 「宮城県は水道民営化ナンバーワン!   じゃなくて、ロンリーワン…?」 前編

2020年10月31日、東京エレクトロンホール宮城 602 中会議室にて、「宮城県の『水道民営化』問題を考える市民連続講座 第3回 宮城県は水道民営化ナンバーワン! じゃなくて、ロンリーワン…?」が、命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ主催で行われました。

 

みやぎ型管理運営方式

 

 

報告1「海外で水道事業の再公営化は進んでいないのか?」       

9.13命の水を守る全国のつどい in 浜松の報告 佐久間敬子さん(弁護士)

 佐久間敬子弁護士

 

私がお話するのは、9月13日に浜松で行われた「命の水を守る全国のつどい in 浜松」のご紹介です。 

命の水を守る全国のつどい in 浜松

 

命の水を守る全国のつどいin浜松

このつどいは第2回です。第1回は昨年の1月13日で、私たち命の水を守る市民ネットワーク・みやぎからも2名参加して大きな刺激を受け、非常に先進的に進んでいる浜松の運動の勢いをお借りして、昨年の6月29日に東北学院大学の押川記念ホールで、命の水を守る全国のつどい in 宮城を開催しました。

この日は、実は他の水に関する講演会があり、私はそちらに参加しましたのでこの浜松のつどいには行っておりません。またコロナのため、このつどいは結局リアルではなくZoomで行われました。全国6カ所にサテライト会場を設けて、全国の方が見られるようにしたようです。

内田聖子さんと岸本聡子さんは、みなさんご存知のように水問題の第一人者です。

私はこのつどいの様子をYouTubeで拝見したり、紙ベースに落としたものを見て、大変優れたお二方の報告を、ごく簡単に私が理解できた限りでみなさんにお話しようと思います。

このつどいではお二方の他に、次にお話しする小川さんが宮城の状況を報告し、大阪、浜松など、各地の水道民営化反対運動の取組みの紹介もありました。この動画は今でもYouTubeで見られますので、皆さんも是非ご覧ください。

save-public-water2020.mystrikingly.com

 

f:id:MRP01:20201104163901j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

内田聖子さんは、水の民営化という問題が生まれてきた背景と言いますか、その思想というかイデオロギーである新自由主義に焦点を当てて、その動きとそれに対抗する市民サイドの動きを、巨視的に概観してお話しくださいました。

岸本聡子さんは、外国の水の民営化に関する大変すばらしい市民運動の闘い、まだまだ苦しい状況にある国、一定の成果を上げつつある国、それから、この水の民営化に反対するという動きの中で、新しい民主主義、地域主権というものを確立していく、水だけでなく暮らし全般に関わるもの、そういう新しいコミュニティや民主主義を作る運動が生まれているというご報告をなさいました。

 

f:id:MRP01:20201104164640j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

1980年代から日本では、「官から民へ」、規制緩和行政改革、政治改革、司法改革というように、改革という言葉が躍って、それに世の中が動かされてきた。

ヨーロッパでは、「投資の自由化」「資本移動の自由化」「貿易の自由化」という形で、企業が国境を越えて自由に経済活動を展開できるようにするためのイデオロギーで経済のグローバリゼーションを進めてきた。

これは単なる私的な営業だけではなく、水道や医療、学校、介護施設など、本来は公共で担うべき分野にもだんだん手を伸ばしてきた。それを市場化、民営化と言うのですが、それが非常に弊害を生み、貧困、格差の拡大、一極集中という形で富が都市部に集中して、地域経済が衰退している。そういうことと合わせて、私たちが地域で自分たちが生きやすい仕組みを作っていく、地域で民主的に物事を決める仕組みがだんだん後退していっている。

そういったところに、ヨーロッパの経済危機やアジアの通貨危機を契機として、IMF世界銀行、欧州銀行が、困った国に集中的に支援する条件として、公共サービスを民営化する、市場開放を行うということが行われ、それがずっと続いてきた。しかし、民営化された水道は料金が上がり、約束された水道の手入れをしないといった結果になり、「やはり民営化はおかしかったのでは」と民営化に反対する流れが今ある。一度民営化したものを公営に戻す取り組みもだんだん増えている。

 

f:id:MRP01:20201104212211j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

一方日本は、明治以来ずっと、水道事業は自治体が運営してきた。1890年からそういう仕組みができてきて、1894年の日清戦争、1904年の日露戦争のずっと前に、かなり古い時代から、民営水道は認めず、自治体が責任を持つことになっています。

橋本淳司さんの岩波ブックレット「水道民営化で水はどうなるのか」には、なぜ水道は自治体が運営するようになったのかがコンパクトに書かれています。一時は民営水道があったようですが、当時の元老院という議会が、「水道は公衆衛生に関わる。国民の健康や命に関わるものを民間に任せては駄目だ」ということで、私営の水道は認めなかった。以来ずっと、原則公営水道でやってきています。

ところが、世界的に民営化がだんだん多くなってきて、日本でも、1999年に一番最初の水道民営化が可能になった。これは官邸主導の政策ということで、みなさんもご存知の未来投資会議とか産業競争力会議、国家戦略特区諮問会議といった会議を構成する民間議というとっても変な名前の議員の方々、竹中平蔵さんとかが有名で力を振るった。

安倍政権の下で進められた種子法の廃止とか、卸売市場法の改定とか、内田さんがいま非常に心配していらっしゃるのは、今年の5月に成立したスーパーシティ法(国家戦略特区法改正)です。ここでも竹中平蔵さんが活躍したということです。

こういう民営化の道とは別に、たとえば、浜松の下水道は残念ながらコンセッションになりましたが、上水道は食い止めているというように、民営化に抵抗する市民レベルの運動もだんだん力を大きくしてきています。

ご存知のように、

①人口減少 ②インフラの老朽化 ③行革による専門職員の削減 

といった水道事業の問題はあるんですが、だからコンセッションなのか? ほかの選択肢はないんだろうか? を考えてみなければならない。

特にコンセッションについては、「所有が公だからまあまあいいんじゃないか」と思うかもしれませんが、逆に、「所有までしたら大変だ」と民間企業は思っています。民間企業は手が出ない。多大な投資が必要になるからです。

所有が公で運営権を丸ごと民間がもらうというのは、ある意味、非常においしい話、いいとこどりの制度ではないか。

 

規制改革、公共サービスの民営化の流れをまとめた表をお配りしています。

f:id:MRP01:20201104221327j:plain

これは、内田さんが9月13日のつどいのために、従来のデータを構成したものです。1985年からずっと公共サービスを民間に開放するという流れができています。今年2020年には、内田さんが心配している国家戦略特区法が成立しています。

 

これも内田さんの資料ですが、「公的資産の民間開放」というテーマで、2016年の未来投資会議で竹中平蔵間議員がこういう発言をしています。

f:id:MRP01:20201104223110j:plain

上下水道というのは、大変大きな規模の金額なんですね。全国で数十兆円に上る老朽化した資産だと言っていますが、どこに不満があるかと言うと、やはり資産規模が大きいというところだと私は思っています。

 

f:id:MRP01:20201104223621j:plain

これは、福田隆之という人が厚労省で講演をした資料です。

公共インフラの中で料金収入が非常に大きいのは、この左側のグラフの水道、下水道、道路とか空港です。右側の施設の資産規模のグラフでも下水道が一番大きい。次が水道です。

これを見ると、収益の上がる資産規模が大きいというのが、日本の上下水道の現実だということです。ただ、そこには様々な更新が必要です。

 

コンセッションの問題点は、だいたい8つぐらい挙げられています。

f:id:MRP01:20201104230449j:plain

料金値上げから始まって、サービスも悪くなる。今は災害が多いですよね。災害が多い中で、3.11の時はどうだったか? 去年9月の台風の時はどうだったか? やはり、公共であるからこそ、全国の水道あるいは下水道の職員たちが駆けつけて、損得抜きで災害作業に対応してくれたわけです。これが利益を上げなくちゃいけない民間企業でやれるんだろうか? という不安があります。

それから、専門技術者がいなくなってしまうだろう。

いろんな出前講座で「もうすでに専門職はいないんだ」と県は自慢げに言うんですね(会場から笑い)。

「民間に委託してて、100%お願いしてて、県にはいないんですよ。だから何も変わらないんですよ。」と言うんですね。これはおかしい。

「これから養成しろ。今いる人を大切にして、後継者を 作っていきなさい」と言いたい。

契約不履行の場合どうするのか? 民間企業がつぶれたらどうするのか? イギリスでは、非常に巨大なコンセッションを一手に引き受けていた会社が、2018年1月につぶれました。国が何千億円かの税金を投入してそれを引き取った。ですから、笑い事ではないんです。民間企業は破綻する。「契約で縛ってるから大丈夫です」と県は言うんですが、そんなことはない。契約で縛ろうとどうしようと、経営困難になって潰れる事例は実際に山ほどあるんですね。

 

f:id:MRP01:20201104230006j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

コンセッションに反対する自治体の首長さんもかなりいらっしゃいます。後ほど小川さんからもお話があると思いますが、新潟、福井、長野県は、相当前から水道法の審議のあたりから、「慎重に考えるように」という意見書を出していますし、青森市秋田市のように「わが市は導入しませんよ」と言っているところもあります。こんなふうに、宮城の対応は当たり前ではないんですね。

それから、コンセッション以外の選択をしたところを2つ挙げてありますが、特に注目されているのが岩手中部水道企業団です。(資料⑤ ↓ )

f:id:MRP01:20201104234819j:plain

 f:id:MRP01:20201104234937j:plain
この岩手中部水道企業団の参与の菊池明敏さんは、公営のまま水道事業の問題を解決するということで、10年がかりで不要で過大な浄水場などを廃棄するダウンサイジングを行い、無駄なお金をかけない形で大きな成果を上げたとおっしゃっています。統合から4年間で76億円の投資を削減できた。年間の料金収入が46億円ですから凄い効果です。

このように水道問題の解決策はいろいろあるんだということを、よくよく見て、そして検討して、この宮城では何が一番ふさわしいかという選択をする必要があると思います。

f:id:MRP01:20201105145009j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

岸本さんは、世界の動きを非常に躍動的にお話しくださったんですが、結局、民営化はかつてのような勢いはなくなってきているということです。それでも、まだまだ油断はできないと言います。

「完全民営化と」と言って施設まで所有してしまうのは、非常にリスクが高いと企業側は懸念している。なので、その一歩手前の仕組みが企業には歓迎されますが、公にとっては、1回締結した契約を解除するのは非常に困難だということがあります。契約違反ということで損害賠償金を莫大に請求される可能性がありますので。

2つの側面から苦しい状況にある国が紹介されました。

f:id:MRP01:20201105150054j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

チリでは、社会主義政権が崩れて軍事政権になってから、新自由主義が入ってきて水道が民営化されたということです。

去年の7月、チリのオソノー市でオイル流入事故がありました。10日間給水ができず、14万人が影響を受け、特に医療とか、様々なケア施設、透析の患者さんに影響があり、公衆衛生非常事態宣言に至った。事業者はスエズの子会社のエッセル社で、従前から「どうも約束した投資をしていないんじゃないか」「非常にサービスが悪い」と言われていたようですが、案の定そういう事態が発生した。

規制当局が契約を解除して公営に戻すと言ったところ、スエズはTPPのISDS訴訟を提起し、220億円を請求すると政府に通告してきた。その後の顛末は、岸本さんからご紹介がないのでわかりませんが、契約をいったん締結すると、満了しない限り、途中解除は非常に難しいということです。

もう一つご紹介いただいたのは、インドネシアジャカルタです。

f:id:MRP01:20201105151911j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより


ここはスハルト政権の時からコンセッションが始まり、人口950万ということで、世界最大規模の水道民営化だそうです。東西2分割で、テムズ・ウォーターとパリジャというところが受け持っていますが、住民組織が水道民営化に反対するため市民連合を作って運動し、最終的には、民営化はやめてジャカルタ水道公社に戻すという訴訟を提起しました。

地裁では勝ちましたが、高裁では負けました。最高裁では、「水は人権である」という国際合意に反し、インドネシア憲法にも反するので、民営化はダメだという判断が示されたのですが、この後、違憲立法審査権が要求なされ、最高裁の判決が覆されました。そういう力に知事が負けたのか、契約終了後も、また新たに25年契約を続けると発表された。素晴らしい闘いをしつつ、最後はなかなか苦しい状況にあるというのがこの2つの国でした。

 

f:id:MRP01:20201105155012j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

非常にいいニュースとしては、国連の動きですね。

国連の水と人権に関する特別報告者という方がいらっしゃるそうです。共謀罪の時にも特別報告者という方がいたし、日本の生活保護のレベルが低いというのでいろいろ勧告をした特別報告者もいました。水に関してもこういう方がいます。

「水は人権」という国連決議から10年になりますが、それを突き詰めて考えると、担い手は誰なのか? ということになります。公営じゃないとダメなのか? 民間でもいいのか? という問題があります。

これについては、なかなか触れにくいということで、避けられてきた。私が見た学者の論文でも、ここは非常に曖昧で、「ちゃんとしたことをやってくれるなら、民間でもいいだろう」というような書きぶりです。

ところが、この特別報告者の方はそうではない。上下水道は、民が運営するか公が運営するかで違いがある。民の最大の特徴は、利益の最大化だ。水道は自然独占であり、力関係の不均衡があると述べた。

自然独占というのは、独占体制が生まれる理由です。水道事業はものすごく巨大な装置が必要になるので、競争業者は生まれない。航空とか運輸は複数の業者が競争できますが、水道施設は、民間が自分だけの力で作るのは難しいので、自ずと独占体制になってしまう。なかなか公がやるような事業は民間にはできない。

結論として、民営化はリスクがある。効率性の向上は学術的に証明されていない。リスクがあり、効率化できる証拠がないのに、なぜ民営化するのか?ということです。

また、アメリカのボルティモアでは、市議会で水道施設の売却とリースを禁止する決議をした。自治憲章を改定して住民投票で同じ決議をした。自治体に自治憲章というのがあるんですね。日本でも、地域で自治的に物事を運営できるような条例を作ろうという運動があるようですが。

それから、カナダではブルーコミュニティ運動というのが巻き起こって、次の3つの決議をしています。

①安全・安価な水は基本的人権

公的資金に支えられた上下水道の公的所有を守る。

③公的施設・市主催のイベントでのペットボトル使用禁止。

 

f:id:MRP01:20201105162702j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

民営化の失敗による再公営化では、新しい公共のための 公営化が始まっています。

水道民営化のマイナス点として、民間企業の不適切な経営によって、労働者の労働権が侵害されるということが出てきます。内田さんは、民営化の失敗はまさにここに典型的に表れているとおっしゃっています。

民営化から新しい公営に戻すという場合には、非常にプラスの成果が出ている。たとえば、地域の資源を生かす住民の力が育つ、住民や環境にとってより良い政策を実現できる、公的所有や統治の民主化が進むなど。

新しい時代の「公」を作る運動に発展した実例として、スペインのタラサがご紹介されました。ここの「命の水市民連合」は、選挙を通じて自分たちと同じ主張の議員を議会に送り込んでいった。そして、市民が参加して水道事業の運営をしていくということで、ミュニシパリズムが芽生えていった。ミュニシパリズムとは、地方自治体の住民の主権を核に、その地域だけで孤立せず、世界と連帯しながら、新自由主義から脱却していく運動だとおっしゃっていました。

 

f:id:MRP01:20201105165736j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

お二人のお話をまとめると、

結局は、新自由主義というものをどう考えるか? 私たち一人一人が、新自由主義とどう向き合っていくか? ということです。

国は多国籍企業や国際資本に乗っ取られちゃって、その代弁者になっているという現状を、ちゃんと把握する必要がある。このコロナの中で企業の脆弱さが明らかになって、やはり国家というものの役割が大切なのではないかと私たちは改めて気づかされています。

そのためには、地方から国を変えていくのが良い方法です。ガチガチになっている国家の中枢に食い込むのはなかなか難しい。地域から変えていくのは、私たち一人ひとりにもできることだと言うんですね。国家ではない市民レベルの連帯が必要だということです。

こういう新しい公共を作るという積極的な動きがあるという反面、コロナを口実とする社会の監視システムが強まっているのではないかと内田さんは警告しています。

スーパーシティ法というのは、みなさんよくおわかりではないでしょうし、私も、全くわかっていません。なんか変な法律ができたなと思いましたけど、これは国家戦略特区法の改正なんです。

「国家戦略特区法というのは、非常に歪んだ特定の団体に利益を供与する仕組みになっている」と、昨日、桜を見る会を追求する法律家の会の東京での会合で、前川喜平さんがおっしゃっていました。そういうものを使ったデジタル化に関する法律なんですね。

来年はデジタル庁が創設されるということです。私たち一人一人の密なる接触を避けて、すべてITにお任せして、大変便利にいろんなことができるというのですが、デジタル庁ではマイナンバーを銀行の預金と連携させよう考えている。大変警戒すべきことだと思います。

コロナによって、私たちは新自由主義というものは限界があるなと、新しい市民の力、地域の連帯が必要だと認識したんですね。これで世の中が少し良くなるかなと思ったら、相手はより一歩先に行っている。

 

それから、コンセッションの経済的効果について、イギリスの会計検査委員の報告書をここにご紹介しておきました。

 

f:id:MRP01:20201105170934j:plain

           佐久間敬子さん作成レジュメより

 

無駄な公営企業じゃなくて、合理的で効率的で、そして新しい進取の気風に満ちた民間企業がやるという話だったけど、実は非常に高くついているという結果です。 学校で言うと、40%高くついている。

イギリス労働党も、これからはコンセッション等のPFI事業はストップすると言っています。

イギリス会計検査院も、PFIは非効率で無駄だ、損失が大きいと言っている。ヨーロッパ会計検査院もです。

そういう中で、何で日本が、しかも私たちが住む宮城が、水道の民営化をするのか?  宮城は、ナンバーワンではなくて、ロンリーワンになりつつあります。