宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

学習会「水道民営化(みやぎ方式)をどう考えるか」

2019年6月2日、仙台市戦災復興記念館4F第2会議室にて、憲法が生きる市政・県政をつくる青葉区民の会主催の学習会「水道民営化(みやぎ方式)をどう考えるか」が行われました。

第一部「水道民営化」をどう考えるか ー 事業の公共性をどう担保するか ー      講師  中嶋信さん(徳島大学名誉教授・自治体問題研究所顧問・宮城県大崎市在住)

中嶋信

<中嶋信さんのお話>

 水は公共財である。みんなのものだ。だからみんなで管理する。この仕組みが大事。

コンセッション方式は、地方公共団体が経営する原則を維持するが、民間企業に運営権を売却できる仕組み。形式的には公共が関わっているが、中身の一番おいしいところは民営化するというお話。

水道事業というのは大きな水循環のほんの一部分。

1990年代徳島でダム建設がいくつも出てきて、それをどう評価するのかという専門的な知見を求められ、官僚たちと話し合いをしたが、当時「ダムは無駄」という批判が高まっていた。

実は日本は水があまっていたが、ダムを作りたかった。どんどんダムを作って公共事業を展開して、そのことで地域を活性化するという戦略が展開されていたが、それはしだいにバレてしまう。「いやダムを作らなくてはいけない」と理論武装するため、建設省・厚生省・自治省など関係5省庁連絡会議が行われ、下図が作られた。

水循環

 

右側が上流で左が下流。山の上の方で水が涵養され、流れて川になり、段々太くなっていく。涵養の主な役割は林業林業が水源涵養で決定的な意義を持つが、今ここが崩れている。四国は杉の林が中心だったが、杉は誰も買わない。手入れもしない。だから山ごと崩れている。そうすると水源涵養はどうなるか。蛇口をひねって水が出るという前提のところで、問題が発生している。こういう大きな流れの中で水道事業を位置づける必要がある。

たとえば、チッソ水俣では、有機水銀を垂れ流した結果、不知火の海が水銀汚染されてしい、魚を食べた人たちが亡くなったり病気になった。

水の管理をするのはいったい誰の責任か。使っている人が管理しなけらばならないが、使っている人はいい加減に手抜きをする場合が多い。それを保健所がきちんと管理することなっているが、機能していなかった。あるいは市民の生活を一番大事にしなければならない市役所が、そういうことを先送りしていた。チッソ水俣は、水俣にとっては大変有力な事業体なので、たぶん忖度があったりした。現在の調整機構というのは大きなシステムで、それを管理する体制がうまくできていなかったが、「こんな大きな問題なのだから君たちは黙っていなさい」というふうにこの図を使っているところに問題がある。

スイスの場合、政治、市民生活にかかわるようなことは、近接性の原理で動いている。

市町村という近いところで決めて、小さいからできないということは州が後押しする。市町村や州の要求に対して国が後ろから応援する補完性の原理もあるので、きめ細かい政策が展開できている。

先週私はスイスにいた。外国で水道の水を飲むのは躊躇するが、スイスでは4か所で水を飲んで、みんなうまかった。すぐそこに氷河があってその水を蛇口で飲んでいるから。スイスは840万人ぐらいで連邦制。26の州があってそれぞれが独立していて、地方分権がしっかり安定してる。水道事業は各州が管理しているが、具体的には市町村が運営している。

スイスでは水道の請求書は年に2回届く。年間一人当たり、上水道代が45スイスフラン(日本円で約5,000円)下水道代が65スイスフラン(日本円で約7,000円)。4人家族だとその4倍。庭に噴水を作ると2人分増し。水道メーターがなく、検針もやらない。

 豊富で良質な源水があれば近距離給水が一番良い。宮城県の場合は、大きな水源が3つあって離れたところから運んで、それを全部繋げているので、すごく太い管が必要。これが市町村単位でやっていれば、もっと短くて維持費用が少なくてすむ。スイスの水が安いのは源水が多いだけではなく市町村単位でコントロースしているから。

いま、水道を広域化しなければいけない、大きな組織が必要だ、皆さん言うことを聞きなさいよという方向に誘導しているのはインチキ。

水不足が起こっている、水質が悪化している、宮城県で特に強調されているのは関連インフラが劣化しているから直さなければいけない、だから今までのシステムを改めましょう、と大きな水循環系を管理する大きな組織を作っていくための理屈に使われている。

水不足はウソ。ガセネタ。水はあまっている。最近特に都市部では水があまっている。節水技術が高くなっているから水道代がなかな稼げない。水洗トイレの水の量も4分の1ぐらに減っている。農村部の水利用も、人が少なくなったので減っている。

水質が悪化した例は、大阪の水。源水が琵琶湖で、滋賀県の人たちが使った水を流し、京都の人たちが使って流したものを大阪が使うというように、何度も使い回している。だから大阪の水は膜処理をしている。最も高い水を使って不純物を取り除いたりする。そういう所もあるが、全体として水は潤沢にある。水質悪化というのは使い方の問題。

私は、1990年代ダム計画を止めるような運動にかかわっていて、2つつぶしたダムファイターだった。いらない事業が結構多かった。

建設省の人たち(のちの国交省)は、「これからこの地域で人口が増えるから、安定して水を供給するために上流にダムを作る必要があります。現在ここの人口は10万人ぐらいだけれども、この後どんどん増えて15万人になるでしょう。だからダム計画は大きくしなければいけない。そうなってくると工場も盛んになるから、工業用水も必要になってくる」と言い、「これはずるいんじゃないの」と話すと、「でもそういうことがありうるし、小さく生んで大きく育てる」と言う。

建設省の予算は事業を作ると付く。そこで雇っている人やアルバイトの人も含めて人件費を確保するのに事業を大きくしていかなくてはいけないからどんどん大きな事業に変えていく。それが常態化していた。

国民のお金なのにとんでもない話。結果として高い事業になった。しかも人口はその後減っている。結局、水があまって維持管理費を集金できないから先送りをする。それで劣化が進む。

スイスの近接性の原理のように、地域の具体的な要求に応じた水道事業を展開していれば、水の量は少なくてすむし、関連施設も小さくてすむ。

今回、流域全体で水供給体制を作るという提案が出てきて、そのためにコンセッション方式が使われているのは、たぶん道州制を意図している。市町村合併をさらに進めて、基本的には40万人単位の地域を作り、それに対応するような水道を作るというイメージでやっている。

大規模化すれば合理的だという考え方は、高度経済成長の時にずいぶん流行った。「大きなことはいいことだ」と。そういう感覚でどんどん費用を増やしてきているが、これはおかしいと思う。

良質な水を潤沢に、安全に供給するという場合には、スイス型の近接性の原理に基づいた事業のほうが、安くて小回りが利いていい。

健全な水循環を進めるにはどうしたらよいか?

大規模な仕組みでまとめてしまうと、無駄が多くなってしまい、水道事業の質の低下を招く。もっと水そのものが汚れないようにしないといけない。

スイスの観光地の中心地はガソリン車の乗り入れが禁止されている。きれいな環境を守るためには、ガソリン車はだめというのは当たり前。ごみの収集は5種類分別。基本は分別して循環させるごみを出さない仕組みにしている。大型製品は回収義務が業者にある。そういったことを当たり前にして、無駄を出さない、

きれいな環境を維持することできれいな水を確保する。その上で水をうまく使う。そうなってくると、専門的な知見を持った業者が必要。

フランスでは水道事業の公的管理の伝統がある。公共の利益に反するような事態に対しては、住民がきちんとものをいう。それを尊重するような管理の仕組みができている。

いま日本で悪の権化のように言われているヴェオリア社も、会社の紹介には、「継続的な環境保護策の改善と持続可能な発展に対する活動を推奨することを通じて日本社会に貢献していく」と書いてある。これは企業の社会的責任の一環でもあり、水の処理についてはプライドと自信がある。

高い技術を持っている企業があって、使う人がそれに命令すればいい。日本の場合は、企業の事業内容について公的に管理する伝統がない。ここに問題がある。

公務員は英語で public servant( みんなの召使い)、日本語では公僕である。

みんなの要求をきちんと受け止めてそれを執行するような仕組みがあれば問題はない。日本の場合は、みんなの公共の利益を確認しないで、お上が勝手に事業をする。

意思決定をする仕組みをどう作っていくのかが大事。それで公共の事業を管理させる。今回出てきているコンセッション方式や水管理のやり方は、これに反する方向にある。だからこの後、問題が起こってくるんじゃないかと思う。

もっとやらなければいけないことはたくさんある。水道は、こぼれている水がすごく多い。管理する人が減っているから、水管の管理が非常に弱い。水道事業を立て直すには、もっと人を配置して、水源をどう安定させるかということについても、広い視野で住民の皆さんと議論する場が必要。

 

第二部 宮城県の水道事業民営化は、何のため・誰のため             講師  遠藤いく子さん(宮城県議会議員)

  

 宮城県が運営する水道3事業

① 水道用水供給事業(25市町村)

② 工業用水道事業(67社)

③ 流域下水道事業(26市町村)

宮城県は市町村に水の卸売りをしている。

 

 1、宮城県の水道事業の現状と課題

① 水道事業としての経営は安定している

将来の管路整備の必要性はあるが、今すぐ変えなければダメだという状況ではない。 今後どうするのかについては、もっとゆっくりみんなで話し合う時間は十分にある。

② 宮城県の水道料金は全国でもトップクラスの高料金

右肩上がりの人口増を見込んだ過大な設備投資のせいだが、現在は借金返済のピークを過ぎて、料金引き下げが可能になってきた時期。

③ 市町村の水道人材確保と技術の継承が難しい状況

この点は広域化を議論する際に考慮すべき。

④ 水道民営化の対象は人口集中地域

人口減で儲けにならない東部北部の農村地帯は「みやぎ型管理運営方式」から除外されている。

 

 2、「水道法改正」と「みやぎ型管理運営方式」

① 2018年改正水道法の概要

・民営化の推進

地方公共団体が水道事業者等としての位置づけを維持しつつ、厚生労働大臣の許可を受け、水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる(コンセッション方式)の導入

・広域連携の推進

市町村水道の広域連携(広域化)推進の努力義務を、県に課す。

・国会での付帯決議

国民的な不安や疑問に配慮した「具体的な指針」等を施行までに明示する(施行日は2019年10月1日)。

国会ではものすごく抽象的な議論しかしないで、実際にどうするかは政省令で決めるやり方。

② 水道施設のダウンサイジング、事業継続困難時の措置

宮城県の要望書(2019年3月22日)が、水道施設運営権の設定に係る許可のガイドライ

ンと手引き改定素案に反映された。

 

 3、宮城県の民営化の問題点

① 命の水を企業利益の対象にしていいのか?

 コンセッションとは、PFIの一形態。

 成長戦略と投資先確保のため、民間が安心して投資できる枠組みを作った。

 儲からなければ撤退。

 ② 企業利益に資する情報しか県民に公開しない

二つの調査(導入可能性・デューデリジェンス)の情報開示結果

1回目の開示文書(497枚中160枚が黒塗り)

黒塗り

 

不服審査請求後の2回目の開示文書黒塗り

 県民の命や健康にかかわる水道のことなのに、重要な情報を公開する姿勢が全くない。

 

 4、市町村水道事業への展開

 民間事業者は「水源から蛇口までの民営化」を求めている。

 宮城県は広域化の話し合いを誘導している。

 広域化は上から押し付けられるものではなく、市町村が自主的に行うことが重要。