宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

みやぎ型管理運営方式にしても、水道の課題は解決しない!!

「このままでは水道事業は破綻する!! お金とノウハウがある民間企業がその救世主になるはずだ!!」

宮城県は力説しますが、そもそも議論の方向性が根本的に間違っているのではないでしょうか。

 

水道の課題  宮城県上工下水一体官民連携運営事業 「みやぎ型管理運営方式」について

 

 

水道の課題   宮城県上工下水一体官民連携運営事業 「みやぎ型管理運営方式」について

 

水道の課題   宮城県上工下水一体官民連携運営事業 「みやぎ型管理運営方式」について


上の図で示されているように、人口減少社会、節水型社会に設備・管路の更新需要のタイミングが来たということは、今までの仕組みを総点検して大本から考え直し、新たな社会に適合するように水道という事業をデザインする好機でもあるととらえるべきです。

宮城県の論調には、そういった視点が欠けています。

まずは、過剰設備を縮小するべきでしょう。現状あるものをそのまま全て更新するということこそ、ばく大な無駄と未来への負債を産みます。

高度経済成長期に人口増加を前提に過剰投資された設備や管路のうち、今後も本当に必要なものは何かを精査し、効果的な整理や廃止といったダウンサイジングも考えなければいけませんが、県の更新費用の試算では、そういった説明は一切ありませんでした。

たとえば、

岩手中部水道企業団は近隣の水道事業者と統合し誕生した。もともと用水を供給していた旧企業団、北上市花巻市紫波町の4つの水道事業を統合し、2014年4月に新組織で事業を開始した。

(中略)

 統合前に設備の老朽化と将来の更新費用を調査すると、料金収入は激減し、更新投資は大量に発生するとわかった。施設を維持したら事業費は数倍になり、料金値上げにつながる。そこでダウンサイジングを実施した。たとえば統合時に浄水施設は34あったが、それを2025年度に21まで減らす計画だ。統合から4年経った2018年末までに5つの浄水施設を廃止。廃止施設を含め、広域化の最初の事業計画から約76億円の将来投資(必ずやらなければならなかった投資)を削減した。今後さらに8つの浄水施設を廃止する計画で投資削減額はさらに多くなる見込みである。統合前には半分程度だった浄水場稼働率は7割を超え、管路や浄水施設の耐震化率も伸びている。

(中略)

 岩手中部水道企業団では当初、「小規模施設は原則廃止。基幹浄水施設や送水幹線を整備し、施設の統廃合を行うこと」が基本路線だったが、小規模でも効率よい施設は存続させる方針を立てている。つまり、大きな施設と小さな施設を地域特性に合わせて組み合わせて使う。

(「安易な民営化のつけはどこに 先進国に広がる再公営化の動き」イマジン出版 ©2018 第7章 持続可能な水道を目指す 橋本淳司 216~217ページ)

といったやり方もあるのです。

宮城県は、お隣の岩手県と水道運営について情報交換をしていないのでしょうか。学ぶべきことは沢山あると思うのですが。

また、宮城県が謳っている上・工・下3事業一体によるスケールメリットの発現効果の拡大について、全水道宮城県支部は次のように述べています。

  宮城県は「みやぎ型管理運営方式」を行うにあたって、上水道、工業用水道、下水道をまとめて民間事業者に任せれば、水を浄化するのに必要な凝集剤であるとか、水を消毒するのに必要な塩素剤であるとか、同じような薬品を上工下水で大量に一括して購入することで、相当なコスト削減を図れるとしています。

 しかし、この上工下水道事業の薬品の一括購入は、宮城県が運営を続けながら行っても出来ることです。宮城県は大きなメリットとして一括購入(大量発注)を挙げていますが、これは民間事業者にしかできないことではありません。

(「上工下水一体官民連携運営事業( みやぎ型管理運営方式)の是非を問うシンポジウム」資料6ページ)

けれども、この薬品の使用そのものも不要になる緩速ろ過方式を採用すれば、浄水場にかかるコストを大幅に下げられると、水ジャーナリストの橋本淳司氏は言います。

緩速ろ過は約200年前にイギリスで発明され、公共水道として採用されました。今でもロンドンは100%この浄水方法です。

 緩速ろ過は英語名を「スローサンドフィルター」といい、「ゆっくり砂ろ過」と訳せるため、日本の水道関係者の多くは、この技術を旧式のろ過と誤解していますが、実際は違います。

 また、その名称から、ろ過層の「砂」で水をきれいにする方法と考えられていますが、実際には砂層の表面に棲んでいる「微生物の働き」によって、水のなかの汚れや雑菌を除去しており、「生物浄化法」とも呼ばれます。

 よく「緩速ろ過は水を浄水するのに時間がかかる」といわれますが、速度は水を流す量で自由に調整できます。ろ過速度が速いほうが、空気中の酸素が水に溶け込みやすくなり、水質もよくなるため、イギリスでは従来のろ過速度を倍にしました。

 生物群集が活躍する層を水が通過する時間は、わずか数分ですから「緩速ろ過」どころか「瞬間浄化」なのです。このため、10メートル×10メートルの面積のろ過池があれば、1日に約100万リットルの水が得られます。1日の1人当たりの水使用量を250リットルとすると、4000人の水道需要に相当します。実際にはものすごく効率のよい方法だとわかります。

(「67億人の水『争奪』から『持続可能』へ」170~171ページ 橋本淳司 日本経済新聞出版社 2010)

 

 急速ろ過は、初期投資はもちろん、電気代、薬品代など維持費が馬鹿になりません。複雑な機器の操作も覚えなければならないし、高価な機器を交換するなどメンテナンスも必要で、10~20年すると設備を更新しなくてなりません。

 一方、生物浄化法は、初期投資は急速ろ過と同じくらいかかりますが、維持費はほとんどかかりません。長持ちするので、明治、大正、昭和初期に建設されたものが、今でも現役で稼働しています。

 急速ろ過に比べて電気代も少なくて済むし、薬品代もかかりません。メンテナンスは腐った藻や砂ろ過層にたまった汚泥を時々取り除く程度です。長野県須坂市では生物浄化法の西原浄水場を2006年前に稼働開始しましたが、その後一度もろ過層のメンテナンス作業をしていません。微生物がきちんと働く環境が整っていれば、人間が手を加える必要はないのです。

(「67億人の水『争奪』から『持続可能』へ」173ページ)

「お金が足りない!! コストダウンを!!」と叫ぶのであれば、こういったことも十分に検討すべきなのに、そのようなアナウンスはありません。

宮城県は本当にコストダウンを考えているのか? と疑問を感じてしまうくらいです。

全水道宮城県支部も 

さらに県は、民間事業者で運営した場合は「民間なのだから自由にやれるはず。県が運営するより確実にコスト削減できるはず。」と言っています。しかしながら、その民間事業者が行うであろう肝心の具体的な運営内容については、県は曖昧でぼんやりとした期待的な回答しかしていません。 

 宮城県は「みやぎ型管理運営方式」を進めたいが故に、「県の運営した場合は、コストが高くつく。民間事業者が行った場合は安く済む。」といった、意図的な試算を公表しています。このことは、いざ「みやぎ型管理運営方式」を行った後に水道料金の値上げがあった場合「県営でやっていればもっと大きな料金値上げになったはずだ。」、「もっと早く値上げしなければならなかったはずだ。」などと、料金値上げの格好の材料・言い訳として使ってくるものと思われます。宮城県がコンセッション方式を進めておきながら、どんな事態に成ろうとも絶対に失敗したとは言わないでしょう。実際の成果はどうであれ、結果として水道料金の値上げになろうとも、「みやぎ型管理運営方式」をやって良かったと評価を行うことと思われます。

(「上工下水一体官民連携運営事業( みやぎ型管理運営方式)の是非を問うシンポジウム」資料7ページ)

 と不信感を表明しています。

ここまで考えてくると、「どうやら、みやぎ型管理運営方式は、水道の課題解決のために導入されるのではないのだな」ということが推察されます。

では何のために、村井知事はみやぎ型管理運営方式を強行しようとしているのでしょう?

次回は、その点について確認していきます。

 

宮城県のホームページからダウンロードできる参考資料

 http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/720372.pdf