岸田文雄首相のもと、「新しい資本主義実現会議」が、すでに13回開催されています。
この中で「社会的課題を解決する経済社会システムの構築」と銘打ち、「これまで官が担ってきたサービスにおいても、多様なニーズにきめ細かく対応するため、民間の主体的な関与」を促進しようと、民間で公的役割を担う新たな法人形態と既存の法人形態の改革が検討され、ベネフィットコーポレーションというものもクローズアップされています。
注)令和4年11月30日時点の有識者メンバーです。
今回の記事では、このベネフィットコーポレーションに関して、内閣官房HPで公開されている資料の抜粋を中心にご紹介します。
今回の記事内容
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の実施についての総合経済対策の重点事項(第10回 新しい資本主義実現会議 資料)
◆民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革の検討を行う
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(第9回 新しい資本主義実現会議 資料)
◆ベネフィットコーポレーションとは、公的な役割を目的とする新たな法人形態
◆官民連携プラットフォームの機能強化、企業版ふるさと納税のPR
基礎資料(第5回 新しい資本主義実現会議 資料)
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の実施についての 総合経済対策の重点事項
◆民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革の検討を行う
非営利組織では、事業実施主体として限界があり、資金調達の柔軟性が低いので、
大規模な課題解決が難しいという指摘がある
新しい資本主義実現会議の下、民間で公的役割を担う新たな法人形態検討会を設置し、新たな法制の要否について検討を進め、来年(=令和5年)6月までに結論を得る
財団・社団等の既存の法人形態の改革も、あわせて検討する
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 令和4年6月7日https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf
◆個社の短期的収益を重視 → 社会的価値を重視
金銭的リスク・リターンだけでなく、
社会面・環境面のインパクトを考える企業社会を推進する
◆ベネフィットコーポレーションとは、公的な役割を目的とする新たな法人形態
欧米では、ベネフィットコーポレーション等の新たな法制度が整備されつつある
ベネフィットコーポレーションは
マルチステークホルダー的運営が義務付けられている
株式会社でも、株主価値の向上のため、取締役が株主以外のほかの利害関係者の利益を考慮することができる
ベネフィットコーポレーションの取締役は、他の利害関係者の利益を考慮することが要求される
剰余金の分配(配当)についての制限は課されていない = 配当は可能
ベネフィットコーポレーションであることに伴う税制優遇はない
2010年10月から2017年12月までの間に、7,704社のベネフィットコーポレーションが設立、または株式会社等から移行、全米に拡大
社会面・環境面のインパクトを重視する投資家だけでなく
ヘッジファンドなど利益追求型の投資家も
ベネフィットコーポレーションに投資を行っている
ブログ筆者のコメント
ベネフィットコーポレーションであるというだけでは、税制優遇はなく、配当も可能というのですから、ヘッジファンドのような利益追求型の投資家が、社会還元よりも大きな果実を要求して資金を引き揚げるなどの圧力をかけ、経営が危うくなるような事態をどう防ぐのか? といった懸念があります。
また、企業が致命的な環境破壊などを行って強欲に儲けた後に、罪滅ぼしにもならないような欺瞞的慈善活動を展開するといったことを阻止するため、具体的な方策の検討が必要です。
◆インパクト投資の推進
社会的起業家への投資、官民ファンドなどによるインパクト投資(経済的利益の獲得
のみでなく社会的課題の解決を目指した投資)を推進
ソーシャルボンド(調達した資金が社会的課題の解決に貢献するプロジェクトのみに充当される債券)について、プロジェクトの実施による社会的な効果を適切に開示できる
ようにする
ガイドラインの整備を図り、社会的課題ごとに、発行主体の参考となる指標の例を示す
◆官民連携プラットフォームの機能強化、企業版ふるさと納税のPR
地域の課題解決のため、自治体と企業・NPO等とのマッチングを促進する
官民連携プラットフォームの機能強化
企業の人材を自治体に派遣する取組を進めるため
企業版ふるさと納税のPRを進める
企業版ふるさと納税(人材派遣型)https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/portal/pdf/R021013_jinzaigaiyou.pdf
◆コンセッション(PPP/PFIを含む)の強化
公共施設の民間事業者による運営を行うコンセッションを加速する
空港分野では、運営権対価の最大化を図りつつ、地方管理空港を含め、原則として全ての空港へのコンセッション導入を促進
新たに策定したアクションプランにより、PPP/PFIの導入を自治体が優先的に検討するよう取組を強化
PPP/PFI推進アクションプラン (令和4年改定版) 概要https://www8.cao.go.jp/pfi/actionplan/pdf/actionplan_r4_1.pdf
ブログ筆者のコメント
「公共の施設とサービスに民間の知恵と資金を最大限活用」するのはよいのですが、 民間企業に依存しすぎるのは問題です。
第八章 地方自治
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
注)太字・カラーは、ブログ筆者が付しました。
地方自治の本旨とは、「住民自治」と「団体自治」という地方自治制度の2つの原則のことです。
「住民自治」とは、地方自治が住民の意思に基づいて行われること
「団体自治」とは、地方自治が国から独立した団体に委ねられていること
住民と地方自治体は、国や企業に従属する存在ではなく、それらから独立した意思と機関を所有することが、憲法で保障されているのです。
第一条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。
第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
② 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。
注)太字・カラーは、ブログ筆者が付しました。
地方自治法にも、
地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として
地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う
住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として
地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。
とあります。
そのためには、独自の専門的な知識・ノウハウを長期的に蓄積し、自前で人材育成をしていく力を保持しなければなりません。自主独立の気概を失ってしまうほど国や企業に依存してしまってはいけないのです。
基礎資料
基礎資料 令和4年4月 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai6/shiryou1.pdf
◆ベネフィットコーポレーションへの投資傾向
◆各国の公的な役割を目的とする企業の法制度
◆日本のコンセッション事業実施状況