宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

命の水を金儲けの対象にさせないために    「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」を読む。

大崎市で行われた令和元年度「みやぎ型管理運営方式」に関する県民向け事業説明会では、古川のIさん(仮名)が次のように述べました。

(仮称)経営審査委員会には、専門家だけでなく、素人の市民ね、利用者、住民も入れるべきじゃないか。そういう審査委員会でなければいけないと思うんですが、その辺お聞きしたいと思います。

 

これに対して、緒方昭範企業局次長は 

内容がですね、あまりにも専門的な部分もございますので、どうなのかなあということは考えておりまして。まあ消費団体の方々とかですね、ある程度知識をお持ちの方々について入っていただくことも含めて、今、検討させていただいているところであります。

と答えました。 

専門的なことがわからない住民の意見など、取るに足らないということでしょうか?

けれども、水道事業に問題があった時、日常生活が脅かされたり、時には生命に関わるような事態に直面させられるかもしれない住民が、全く蚊帳の外に置かれたまま、監視やチェックが本当に機能するとはとても思えません

miyagi-suidou.hatenablog.com

3月13日に公表された宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)募集要項等にも、(仮称)経営審査委員会のメンバーである専門家等とは、具体的にはどういう人たちで、どういう基準で、誰が選定するのか、明確な記述はありませんでした。

県は今まで、

「諸外国で失敗した水道民営化とみやぎ型管理運営方式は全くちがいます!!

なぜなら、

①運営権者によるモニタリング、

②県によるモニタリング、

③ (仮称)経営審査委員会によるモニタリング

の三段階モニタリングをするからです!!」

と、シンポジウムや出前講座、マスコミを使って喧伝してきたのにもかかわらずです。

内実が何も決まっていないのに、「モニタリングがしっかりできるから大丈夫!!」となぜ断言できるのでしょう?

そもそも、私たち宮城県民は、みやぎ型管理運営方式を 採用したほうがよいかどうかを、県から一度も尋ねられたことがありません。

もう最初から一方的に決められていて、パブコメや説明会で意見を述べても、「県民の意見は聞き置きました」「詳細は決まったら知らせます」と言われるだけで、議論や 決定のプロセスに参加させてもらえません。

 

民営化は、私たちの「水への権利」を奪うものなのだ。このままでは気兼ねなく水を使うということさえも富裕層のための「特権」になってしまうだろう。

(中略)

 欧州の水道事業は、民営化によって問題が山積している。料金の高騰によって、水を飲んだり、使ったりすることを躊躇せざるを得ない「水貧困」世帯も増加してきた。

(「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」p3~4)

 

岸本聡子

2018年の改正水道法成立後の日本では、こういった事態が決して他人ごとではなくなる、と岸本聡子さんは言います。

改正水道法にはこんな条文がある。

「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし、健全な経営を確保することができる公正妥当なものであること」(第一四条第二項の一)

 旧水道法になかった「健全な経営を確保することができる」という一文が追加されたが、このわずかな変更点にこそ、民間事業者が自治体の想定を超える料金値上げを要求できる仕掛けが潜んでいるのだ。

 「健全な経営の確保」とは自治体が要求するレベルの水供給が円滑に行われるだけでなく、運営権者が適正な利潤を確保して存続できる状態も意味するからだ。

 運営権者、すなわち民間水道事業者が健全な経営が確保できないと主張すれば、自治体はその値上げ申請を拒否できるだけの明確な論拠を示さない限り、改正水道法の第一四条第二項の一を根拠に値上げに応じざるを得なくなる。

 運営経費や設備の更新費用さえ確保できれば、利益を必要としない公的事業体と違い、民間の運営権者は株主配当や高額な役員報酬などを水道料金に上乗せしていく。(中略)

 大幅な水道料金引き上げを許す仕掛けが、改正水道法にはひっそりと埋め込まれた。

(「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」p166~167)

 

では、私たちはどうしたらよいのでしょう?

必要なのは非効率で硬直化した公営サービスでもなく、利潤をむさぼる民営サービスでもない。

(中略)

新自由主義的な企図に抵抗し、公開討論や民主的な選挙を通じて自治体に働きかけ、公共サービスのコントロール権を住民自らの手に取り戻すことである。

(「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」p180~181)

 

その具体的な事例として、フランス、イギリス、スペインなどのケースが紹介されていますが、私が最も心魅かれるのは、フランス・パリ市の水道公社「オー・ド・パリ」と「パリ水オブザバトリー」のシステムです。

 

 ▶市議が参加する「オー・ド・パリ」理事会

 ガバナンス機能を高めるために、「オー・ド・パリ」には理事会も設置された。

 理事会のメンバーは総勢二〇人。そのうちの一三人はパリ市議が占める(市議を兼ねる副市長三名をふくむ)。市議会の定数は一六三人だから、全市議の一〇パーセント弱が「オー・ド・パリ」に関与する計算だ。(中略)

  ここまでパリ市議会が「オー・ド・パリ」に政治的関与を強めるのは、民営化時代に水メジャーの経営がブラックボックスと化し、監視がほとんど機能しなかったことへの反省があるためだ。

 市議以外の理事会メンバーも重要である。労働者代表が二人、市民組織代表が三人、「オー・ド・パリ」経営幹部がふたりの計七人で、合計二〇人である。これに議決権のない科学者と参加型民主主義の専門家が加わる。

(「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」p50)

 

▶市民が意見を述べるフォーラム

 また、市民によるガバナンスを強化するため、水フォーラム「パリ水オブザバトリー(観測所)」が設立された。

 この組織はワークショップやイベント開催するだけの単なる市民フォーラムではない。「パリ水オブザバトリー」は市民参加や水利用者の関与を追及する恒久組織として、「オー・ド・パリ」の企業ガバナンスに組み込まれているのだ。パリ市民なら誰でも参加でき、その運営費用として年間一万ユーロ(約一二〇万円)ほどの予算がパリ市議会から拠出される。

 「パリ水オブザバトリー」のもっとも大切な任務は、パリ市と「オー・ド・パリ」が交わした「パフォーマンス契約」の方向性やそのあり方について、 随時意見を述べることだ。

 こうした活動を保障するため、「オー・ド・パリ」は「パリ水オブザバトリー」に対して財務、技術、水道政策などに関するすべての情報を公開しなくてはならない。また理事会メンバーのオブザバトリー総会参加(年四回)が義務づけられ、オブザバトリー代表は「オー・ド・パリ」の理事会で市民組織代表の一席として議決権をもつ。

 意思決定の権限こそないものの、パリ市の水道事業の方向性にお墨付きを与える諮問機関として、水道利用者と「オー・ド・パリ」をつなぐチャンネルとして、さらには水を通じた民主主義が実践されるベースとして、「パリ水オブザバトリー」は欠かせない存在となっている。

(「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」p51~52)

 

パリ市の人口は約220万人、宮城県の人口は約230万人です。

同程度の人口規模で、このような民主的な仕組みが既に実現されているのです。 

ワクワクしませんか?

私たちも目指しましょうよ! 

みんなに議論が開かれている社会を!

 

 年度単位、いや四半期の決算ごとの利益を追求する民間水道会社が一〇〇年先の環境を守る投資をすることはまずない。

 「オー・ド・パリ」が包括的な地域・流域の水循環管理に乗り出すことができたのは経営陣の理念もさることながら、再公営化で利益の大半を再投資に回せるようになったことが大きい。

 現在、「オー・ド・パリ」の施設投資額は年間で七五〇〇万ユーロ(約九〇億円)、そのほぼすべてを自己資金でまかなっている。持続可能な水道事業という観点からも、利益を惜しみなく再投資に回せる公営水道は理にかなっているのだ。

(「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」p56)