宮城県の水道民営化問題

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「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」を読む(2)

 

民営化ではない(「宮城県上工下水一体官民連携運営事業『みやぎ型管理運営方式』について」p15より)

 

と、宮城県宮城県民に説明しています。(平成31年1月30日「平成30年度第3回宮城県上工下水一体官民連携運営事業シンポジウム『水道の未来を考える』」にて)

けれども村井知事は、2016年12月19日の第3回未来投資会議にTV会議で参加し、安倍首相に向かって「宮城県は上水、下水だけでなくて、工業用水も一緒にして、上工下一体での民営化というものを考えてございます。」と言いました。

第3回未来投資会議 議事要旨 P8

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai3/gijiyousi.pdf

このことに対して、宮城県議会で内藤隆司議員が「安倍首相には民営化と言っているのに、県民には民営化ではないと説明するのはどういうわけか」と追及すると、村井知事は、「時間がないのでわかりやすく説明しました」と答えました。内藤隆司議員は、「わかりやすく言うと民営化というのを、民営化じゃないと説明するのは、ごまかしじゃないか」と言います。

確かに、水道民営化という言葉には、人によってイメージするところがバラバラなせいで、その是非を論じる際にも混乱が生じがちです。

水道民営化の形態は、まず、完全民営化と様々な官民連携(PPP:パブリック・プライベート・パートナーシップ)の2つに大きく分類できます。

完全民営化では、水道施設の所有権と運営権が民間企業にあり、水道事業に関わるすべての権限を民間企業が掌握します。

官民連携は、さらにまた、大きく2つに分けられます。

1つ目は、メーター検診や料金徴収、水質検査などの業務を民間企業に委託する指定管理者制度や包括的民間委託などですが、この場合、水道施設の所有権と運営権は自治体にあり、完全公営に比較的近いです。

2つ目は、10/1施行改正水道法のもとで可能となった水道コンセッションです。施設の所有権は自治体が持ち続けますが、運営権(サービスの提供に関するあらゆる権限を含む)を民間企業に売却するので、完全民営化の一歩手前と言ってよいものです。みやぎ型管理運営方式も、水道コンセッションの一つです。

政府は、この水道コンセッションを含むPFIプライベート・ファイナンス・イニシアティブ)を、1999年のPFI法施行以来、「アメとムチ」を使って自治体に強要してきました。

 さらに政府は、二〇一六年度末までに公共施設等総合管理計画を策定した自治体に対しては、策定に必要な経費に特別交付税措置を取るとした。しかも、策定された計画に基づき実施された事業については、「公共施設等適正管理推進事業債」の活用も認めるとした。財政的なインセンティブを与えることで、PPP/PFI事業の拡大を図ったのだ。

 これらに加えて二〇一五年一二月、内閣府は「多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針」で、自治体への「PPP/PFI優先的検討規定」の策定を要請する。そこでは、①総額一〇億円以上の建設・改修などを伴う事業、または②単年度事業費が一億円以上の運営・維持管理事業について、「PPP/PFI手法の導入が適切かどうかを、自ら公共施設等の整備を行う従来型手法に優先して検討すること」とされている。

 これに基づいて、「簡易な検討」を自治体が行った結果、PPP/PFIの導入に適しないと評価された場合には、外部コンサルタントを起用するなどして、費用の詳細比較を行わなければならない。その結果、自治体がPPP/PFIを導入しないと判断した場合は、その旨および評価内容のインターネットへの公表まで求めた。

 このように政府のPPP/PFI推進は年々勢いを増し、自治体の自主的・自律的な判断を歪めるまでに至っている。

内田聖子編著「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p113~114)

 

2018年6月のPFI法改正で、政府のこの傾向はさらに加速しました。

 改正法案の審議過程はマスメディアからまったく無視され、短時間の審議で可決されたが、これまでの改正とは異なる次元で自治体の判断に政府が介入する危険をはらむ内容である。この改正によって、PPP/PFI事業に関する内閣総理大臣の関与が法的に位置づけられることになった。 具体的には、以下の三点だ。

 ①自治体や民間事業者が内閣総理大臣に対し直接、PPP/PFI事業に関する国等の支援措置や規制について問い合わせできる。

 ②内閣総理大臣は問い合わせに対して、回答もしくは助言を行うことができる。

 ③内閣総理大臣自治体に対し、実施方針に定めた事項などについて報告を求め、または助言や勧告をできる。

 政府はこれを「助言機能の強化」と名付けている。だが、仮に民間企業から「ある自治体の水道事業を担いたい」という問い合わせが内閣総理大臣にあり、その自治体は「コンセッション方式は採用せず、公営のままとする」と決めていたとしよう。その場合、法改正の意図をふまえれば、内閣総理大臣自治体の長に対して、「なぜコンセッション方式を採用しないのか」の報告を要請できる。さらに「コンセッション方式を推奨する」という助言、「コンセッション方式を導入すべきである」との勧告まで可能となる。自治体にとっては、拒絶が難しい「強要」ともいえるレベルだ。

 一方、民間企業にとっては、内閣総理大臣が相談に乗ってくれるというのだから、これほど心強くありがたい話はないだろう。一部の利害関係者による密室での決定が、いかに公共政策を歪め、また利益相反が起こる温床となるかは、森友学園の事件(大阪府豊中市の国有地不当売却)で明らかとなった。国家戦略特区をめぐっても、民間議員である竹中平蔵氏が自ら会長を務める人材派遣会社を事業者に選定した。PFI事業が「第二、第三の森友学園」となる危険性は十分にある。

内田聖子編著「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p115~116)

 

ここまで政府が水道コンセッションを推進する目的は、

 1)規制緩和で民間投資を拡大し、国の経済成長を達成する

 2)政府・自治体の支出を削減して、自治体の財政難を解決する

 3)官民を挙げて国際的水ビジネス市場に参入する

だと、内田聖子さん( NPO法人アジア太平洋資料センター 共同代表)は述べています。

 政府の意図は、国内の水道を「民営化」して日本企業に管理・運営の経験値を積ませてグローバル水企業へと育て、アジアはじめ途上国・新興国へ進出させようとするものだ。進出企業として考えられるのは、たとえば、水ing、ウォーターエージェンシーなどの水道関連企業のほか、最近では横浜ウォーター(横浜市水道局が100%出資)や東京水道サービス(東京都水道局が51%出資)など、自治体の水道局が出資する水道企業もあり、すでに国内外でビジネスを展開中だ。三菱商事や丸紅などの総合商社も、出資などを通じて世界の水ビジネスに参画している。

 ここに、日本政府が熱心に水道の民営化を推進する最大の理由があるだろう。

内田聖子編著「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p119~120)

 

 日本の技術水準は非常に高く、技術支援を通じた国際協力や個別分野での民間企業の活動の意義はあるだろう。しかし、運営権自体を買うというコンセッション方式や完全民営化を担う主体になることが推進されているとすれば、日本発のグローバル水企業が途上国・新興国の人びとの水へのアクセス権を奪いかねない。そのことに、私たちは無関心でいてはならないし、無関係ではあり得ない。すべての人にとって水は人権であり、自治の基本であることを再度確認したうえで、世界の運動とつながりつつ、新自由主義の波に抵抗していかなければならない。

内田聖子編著「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p120)

 

道コンセッションを導入するかどうかは、私たちが住む宮城県の水道にとどまるような限定的な問題ではなかったのです。国際的なより大きな問題の前哨戦としての水道コンセッションを肯定すべきかどうかという観点も必要です。

先に見たように、住民や自治体の意思を尊重する姿勢がない日本政府が、世界市場を目指すグローバル企業(日本資本の企業とは限りません)と結託して推し進める水道コンセッションにおいて、果たして人権は守られるのか? という疑念は拭えません。

でも、逆に考えると、私たちの地域において、水という人権を守る運動や文化をしっかり育てることができれば、それは日本国内だけでなく、世界の人々の水へのアクセスを守ることにもつながるのです。

辻谷貴文さん(全日本水道労働組合書記次長)も以下のよう指摘しています。

私たちは、官(公)民連携そのものに異論を唱えているのではない。だが、現在は「民間金融機関がモニタリングに参加し、効率化できる」という言葉に代表されるように、きわめて一面的な捉え方でコンセッション方式のメリットだけが誇張されている。事業の基盤強化や持続的な水道事業に資することなく、デメリットも生じかねないという論点が決定的に欠けているのだ。

 安倍政権が推し進めてきた政策は、本来のあるべき官(公)民連携までも形骸化させ、一部の者が儲かる仕組みへ転換することに終始している。省令やガイドライン、官民連携の手引きは完成しても、これまでの懸念は解消されないだろう。

内田聖子編著「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p130 辻谷貴文「水道法改正前後の動きと『みんなの公共水道』への模索」)

 

 公共の財産を使って利益を得ようとする人びとの台頭を許したのは、紛れもなく私たち市民一人ひとりである。毎日当たり前のように蛇口をひねり、当たり前に水を利用するなかで、蛇口の向こう側に対してあまりに無意識・無関心だったのではないか。生命維持のために水は欠かせないにもかかわらず、「人任せ」にしてきた。

 実際に運んで見れば誰でも気づくが、水は思いのほか重く、移動するにはコストがかかる。だから先人たちは、水がある場所に集い、そこにコミュニティを形成してきた。文明の歴史が水のある場所から始まったことは言うまでもない。この原点に立たなければならない。「みんなの公共水道」を考える際には、地域の水を自分たちでコントロールできているのか、誰かに支配されていないか、という視点が重要である。自分たちの水(水道)は自分たちで守るという意識が共有されなければならない。

内田聖子編著「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p130~131 辻谷貴文「水道法改正前後の動きと『みんなの公共水道』への模索」)

 注)赤字は当ブログ筆者が施しました。

 

まずは、9/2~10/2に募集される「みやぎ型管理運営方式の実施方針素案」のパブコメで、意見を表明しましょう。パブコメ開始時には、このブログでもお知らせします。