宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」を読む(1)

先日の10/1施行改正水道法のパブコメをご提出なさった皆さま、おつかれさまでした!

締切日の8/20深夜には、Twitter上で#水道民営化 が16万件近くツイートされ、トレンドのトップになりました。パブコメを提出する人たちのアクセスが殺到したため、窓口のイーガブのシステムが次第に重くなり、とうとうストップして、保守中という表示になったというツイートも散見され、「何回やっても提出の途中で送信が切れて、やっと4回目に最後まで送信できた」とか、「サイト激重なので、あきらめてFAXしたった!」という執念の人々も出現しました。(笑)

また、「パブコメが実施されていることも知らなかった」「こんなに大切なことを新聞やテレビはなぜ知らせないのか」という声も多く、このパブコメをきっかけに、水道のことを心配する人が一気に増えたようです。

Twitterのトレンドで今回のパブコメのことを知り、反対の意思表示をしたいけれども、予備知識がなくてどうコメントを書いたらよいかわからないという人たちは、当ブログも含め様々な解説ブログを閲覧しまくったようで、反緊縮政策を掲げて大阪府議会選挙に出馬した大石あきこさん(橋下知事就任時に大阪府職員で、サービス残業に抗議して話題になった方です)のブログ記事は、2万ビューを超えました。

大石さん曰く、

今回のパブコメは、水道民営化のための法改正はすでにされちゃってて、その法のもとで、民営化の許可を国が与えるという許可の審査手続きに対して、 「許可審査のガイドラインを作りました、ご意見あります?」的なものです。

「・・・てゆーか、民営化すな!」って言いたいんですけど、そしたら、

「いえ、本件は、あくまで行政手続きとしての適性性についてお伺いしております」って、ムカつく感じで言われるやつです。笑

 

パブコメ本日8/20〆切】水道民営化を反緊縮の視点から批判する

 https://www.oishiakiko.net/nopribatiz-water-pubcomme/

なのですが、「政府のやりたい放題に、国民は黙っていないぞ!」という圧力を与えるために、こういったパブコメにも、できるだけ多くの人が意見を提出すべきです。

そして、今からでも、改めてみんなで問い直し、考えましょう。

自分たちの地域の水道を、これからどのようなものにしていきたいのか? 

国が推進するコンセッション方式を導入するのか、公営のまま持続可能なものに再生していくのか。

現在、宮城県民が迫られているこの選択は、単純な二者択一問題ではありません。

「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」 (内田聖子編著 コモンズ ©2019)を読みながら、多面的に論点を整理していきましょう。

 

日本社会のキラーワード「お金がないからできない」

と言って、考えることを放棄する。

私たちはずいぶん長い間、この悪習に染まっています。

なので、まずはお金のことはいったん脇に置いて、本当に大切なことは何かを確認することから始めましょう。

「水は生命であり、人は誰も生命を奪われてはなりません。」

(「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p246)

これは、ボリビアで水道民営化反対運動を率いたパブロ・ソロン氏のメッセージとして、この本で紹介されている言葉です。

けれども、

二〇〇〇年に国連で「水は基本的人権である」とする宣言が三三の途上国によって提起され、圧倒的な賛成多数で採択される(日本は棄権)。

(「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p246)

「水は基本的人権である」ということに、日本は賛成しなかった・・・

生命を支える水を奪うということは、人の生命を奪うことになるから、水へのアクセスは基本的人権として尊重しようと、世界の圧倒的多数の国は考えるが、日本はそうではないのか。

もちろん、日本国憲法第25条には、生存権と国の生存権保障義務が定められていて、この憲法25条に基づいて作られた水道法もありますから、建前上は、水がなくて生活できない人が出ないようにする義務は国にあります。

ただ日本社会には、この生存権の保障よりも、自己責任論の方が声高に叫ばれる何とも言えない空気があることも事実です。命に関わる根本のところに対する人々の意識に、揺らぎがあるのです。だからこそ、パブロ・ソロン氏の力強い言葉を今、胸に刻む必要があります。

「水は生命であり、人は誰も生命を奪われてはなりません。」 

最も重要なのは、すべての人から水を奪わないということです。

貧困に苦しむ人からも、ホームレスの人からも、過疎地に住む人からも、被災者生活を送っている人からも、環境汚染に脅かされている人からも。

こういった議論が、後回しになっていませんか?

10/1施行改正水道法では、各自治体の水道事業の基盤強化と官民連携の推進が謳われています。水道事業の基盤強化のため、足りないヒトとカネの調達は、民間企業に任せろというのです。

しかし、 民営化反対活動を行っているマニラ市の「人びとのための水ネットワーク」は、次のように言っています。

「企業の目的は、水を人権として提供するのではなく、市場を拡大して利益を増やすことです。民営化によって、公共の利益と福祉を守るための政府の規制権限は大きく後退させられました。水道は公的に所有され、管理されるべきです。」

(「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p32) 

「企業の目的は、水を人権として提供するのではなく、市場を拡大して利益を増やすこと 」

この現実を直視しなければなりません。

そのうえで、日本の水道における官民連携のあり方を考えていく必要があります。

 水道法の大きな改正が施行されたのは、二〇〇二年の小泉内閣時代である。このとき、水道事業の管理体制強化策の一つとして、管理業務を水道事業者や需要者以外の第三者に委託できる制度(「第三者委託制度」)が創設された。この改正も含めて、「官民連携」として指定管理者制度や包括的民間委託などが徐々に導入されるなかで、メーター検診や料金徴収、水質検査など多くの業務は、すでに民間企業へ委託されている。

(「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p99)

このような現状があるので、今回の水道法改正によって可能になったコンセッション方式に対して、「水道民営化反対!」と異議申し立てをする人たちは、「水道業務の多くはもう民間企業が担っているのに、今さら何を言っているの」と、あしらわれます。

けれども、コンセッション方式における企業への運営権の売却は、これまでの個別業務の民間委託とはまったく次元の異なるものです。

水道法改正時に問題とされたコンセッション方式は、施設の所有権は自治体が持ちつつ、運営権を企業に売却する。「完全民営化」とは異なるものの、サービスの提供に関するあらゆる権限を含む運営権が企業の手に移るため、「ほぼ民営化」「完全民営化の一歩手前」と呼んでいい。自治体は企業経営に関する意思決定には参加できず、得られる情報も限られる。

(「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p104~105)

 

水道事業にコンセッション方式を導入する際の主な懸念や問題点は、以下のようにまとめられる。

 ①水道料金の上昇

 (中略)もちろん、あらかじめ上限額が各自治体の議会で承認され、改定する場合も議決が必要だ。ただし、仮に契約して五年後や一〇年後に企業側から値上げ提案がされた際、その可否を議論する情報や知見が議会側になければ、提案を受け入れざるを得ないことになる。

 ②水質の低下

 コンセッション方式の大きな特徴の一つは、契約期間が二十年~三十年と長期間にわたることだ。政府は「民間であれば競争原理が働く」とするが、それは事業者選定の際である。契約を交わした後は一つの企業(コンソーシアム(共同事業体)の場合もある)による独占状態となり、競争原理は働かない。それゆえ、コスト削減や利益追求の結果として、水質の低下などが懸念される。このことは英国会計検査院のレポートでも指摘されている。

 ③災害時の対応は十分か

 施設・設備の所有権を自治体が、運営権を民間企業が持つことになる。災害時には水道管などの設備が壊れ、水道の供給ができなくなるというように、両者は連動している。迅速な判断を求められる災害時に、自治体と民間企業が意思疎通をして復旧作業にあたれるのか、その際の費用負担と責任はどうなるのかなど、不透明な点が多い。したがって、自治体(すなわち住民)のかかえるリスクが大きい。(中略)

 ④地域経済への影響

 水道に関わる業務の多くは、単年度の一般競争入札によって自治体から各事業者へ発注されている。「町の水道屋さん」という言葉が表すように、管工事業者など多くの地元企業が地域の水道を支えているのだ。コンセッション方式では大手水道企業やゼネコンなどからなる共同事業体が自治体と契約する場合が多く、彼らが建設や管理に携わる下請企業を自由に決めて発注できる。コスト削減のため系列子会社へ丸投げされ、地元の小規模事業者に仕事が発注されなかったり、されたとしても安価になる可能性があり、地域経済への影響が懸念される。

 ⑤職員と技術が失われる

 自治体の水道職員の減少がさらに進む。民間企業の職員数は、自治体の場合と大きく変わらないかもしれない。しかし、「公共サービスを担う自治体職員」と「民間企業の社員」は本質的に異なる。また、長期にわたるコンセッション契約のもとで、自治体が蓄積してきた水道に関する技術や経験が失われていく。その結果、契約期間終了後の再公営化という選択の可能性は低くなるだろう。

 ⑥自治体によるモニタリング(監視)は可能なのか

 水道法改正審議の際に政府は、「運営権が企業に移ったとしても、自治体側がきちんと事業のモニタリングをするので問題ない」という姿勢をとった。だが、運営権の移行は業務に携わる職員や意思決定メカニズムの移行であり、自治体にはモニタリングをする能力自体がなくなる。運営権を企業が握るなかで、自治体がどこまで日常業務や財務諸表をチェックし、問題があれば是正するように提言できるのかは、疑問である。

 ⑦自治体や住民への情報や財務の開示など透明性は担保されるのか

 英国会計検査院は、PFIのデメリットとして、「性能発注であるため業務プロセスが分かりにくく、価格上昇やサービス低下が起きても原因が判明しにくい」「業務委託先が共同事業体参加企業であることが多いために、個別業務間の責任の所在と資金の流れが不明確になる」と指摘している。業務委託をする際は一般的に、行政が発注内容や実施手法について詳細に仕様を規定する(「仕様発注」)。一方、コンセッション方式で多く採用される「性能発注」では、行政は事業に求める「性能」のみを規定し、仕様は事業者に任せる。事業者側は多様な選択肢が得られるが、行政にとっては不透明性が高まる。

 海外の他の事例でも、自治体や住民に対する情報開示や説明責任が不十分であったケースは多い。とりわけ、財務諸表や運営経費、役員報酬や株主配当などが自治体や住民に対して開示されないとすれば、重大な問題である。

(「日本の水道をどうする!? 民営化か公営の再生か」p107~110)

このように、コンセッション方式には多くの問題点があります。

次回以降は、

(1)政府が水道コンセッションを推し進めようとする理由と、

   それがより大きな問題をもたらす可能性

(2)水道の現状を変えていくコンセッション以外の試み

について見ていきます。