宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

第2回 命の水を守る全国のつどい in 宮城  基調講演 橋本淳司氏 & 尾林芳匡氏

開会挨拶 佐久間敬子実行委員長

佐久間敬子弁護士

宮城県の水道民営化は、上水道・工業用水道・下水道の3つの事業を一体化して民営化するという計画になっている。宮城県の人口は230万人だが、この水道民営化でカバーされる人口は200万人ぐらい。3つの事業を一体化し、流域の人口も大きいので、大変大きなプロジェクトになる。これを推進する政府も、関係する水企業も、宮城の水道民営化がどうなるかということについて大きな関心を持って見ていると思う。

この宮城の地でもし水道民営化を許してしまうならば、それは宮城だけの問題にとどまず、全国に波及する。私たち反対する市民も、そういう意味で大きな責任感、緊張感を持って取り組んできた。

県のスピードは非常に速い。もうすでに、水道民営化の導入可能性があるかどうかや、水道事業の資産・財務内容の調査もすんでいる。今年になってからは、アドバイザリー契約が結ばれて、有限会社あずさ監査法人が受注している。県は、今年の9月あるいは11月議会に基本的な条例案を出して可決し、この事業を請け負う事業者を募集して契約を結ぶ。そして、2年後にはこの事業を開始するというスケジュールで取り組んでいる。

私たちがこの問題に気が付いたのは、昨年の秋ぐらい。市民団体の会合で、より良き県政のためにいろいろ学習会をやっている中で、宮城の水道民営化問題を取り上げないと駄目じゃないかという問題提起があり、それから慌てて学習を始めた。10月の末に今日お越しの橋本淳司さんをお招きして、「水道事業のあり方を考える」という学習会を開き、その時に初めて問題の重大性に気が付いた。当時はまだ水道法が改正されておらず、橋本さんは宮城の水道民営化に対して非常に大きな関心をお持ちで、心配しておられた。

私たちの活動は、今年の2月23日が一つの転機になったと思う。この2月23日の集会では、「最後の一滴まで」というDVDの上映をし、県会議員の方に宮城の水道事業、県議会の議論状況のご紹介をいただいた。この2月23日の集会の準備をする中で、浜松の1月23日の命の水を守る全国のつどいの情報が入って、急遽こちらからも2名派遣して参加させていただき、大勢の水道民営化に反対する方々とつながることができた。その報告も2月23日にしたところ、皆さんから「これはすぐに行動するような運動を作っていくべきだ」という熱い希望が出され、継続的な運動にしていくための実行委員会を作って今日に至っている。

この実行委員会では、今日のつどいを成功させることをはじめ、ほとんどの県民が水道民営化について知らないので、多くの県民に水道民営化をお知らせして、その問題点を理解していただくためのリーフレットを作り、今日資料にお配りしている。また、水道民営化をすると本当に何かいいことがあるかどうか、水道事業の財務内容の分析をするチームも作って準備をしていて、そういうことも次第に解明しつつある。県が言うように水道民営化で本当にコストが削減できて、老朽化した施設の補修ができるだろうか、その根拠となるものは何だろうか、こういう大きな疑問がある。これは専門的知識を要する難しい課題ではあるが、調査分析チームが今着々と取り組んでいる。いずれ、その中間的なご報告をしたい。

水道民営化は、皆さんご存知のように1980年代にヨーロッパ、南米、アジアにいき渡ったが、大きな失敗をして、再公営化されている。なのになぜ、今この日本で、宮城の地で、時代に逆行する水道民営化なのかという疑問は尽きない。私たちは諸外国の失敗の事例に学んで、後発のプラスを活かして、水道民営化を食い止めたいと思う。これは宮城の力だけではなかなか難しい。是非、全国の皆さんの力をお貸しいただきたい。

 

基調講演Ⅰ 「宮城県の水道の持続性を考える」 橋本淳司氏(水ジャーナリスト)

昨年12月に改正水道法が可決され、今年7月にそれを実際にどういうふうに運用していくかというガイドラインが公表される。まるで宮城のあゆみに歩をそろえるように。

このガイドラインが出てくると、コンセッションというものがこのガイドライン通りにやれば間違いのないものだというお墨付きになる。そうすると、いろいろなところで、コンセッションの動きが再び活発になってくるのではないか。

残念ながら、宮城県内でこの水道事業に対する関心があまりないという話を聞いている。浜松であれだけの盛り上がりを示して、宮城ではなぜあまり盛り上がらないのかというと、宮城では水源から水の卸売りのところまでが民営化されるのであって、家庭に給配水するのは今まで通り各自治体のため、浜松のように水源から蛇口まで民営化されるということではないから。

しかし、卸売業者の業態が変化するとゆくゆくは各自治体の給配水事業にも影響が出てくるし、長期的には、卸売業者はいずれ末端まで事業を伸ばしたいという計画の青写真が見える。なので、油断をしないで、この事業の行く末というものがどうなっていくのか、透明性が保たれるのかどうか、皆さん自身の水道がどのように管理されていくのか関心を持っていただきたい。

 

水道事業は、今決していい状態にはない。

課題① 人口減・節水社会

課題② 施設老朽化

課題③ 人材不足・技術継承難

施設をきちんと適正規模にしていかない限り水道料金は上がっていってしまう。

 

こうした現状のもと水道法が改正された。 そのポイントは5つ。

 

水道法改正のポイント      「宮城県の水道の持続性を考える」の資料より

 

コンセッションのメリット・デメリット      「宮城県の水道の持続性を考える」の資料より

 

みやぎ型管理運営方式      「宮城県の水道の持続性を考える」の資料より

 注)みやぎ型管理運営方式の契約期間は20年間(当ブログ記事筆者)

 

2016年12月19日の第3回未来投資会議で、村井知事は、水道事業をコンセッションするにあたっての懸念点を2つ述べている。

 ・公共性が担保できるのか

 ・会社が潰れたときはどうするんだ

これらの懸念点はいまだに残っている。

 

コンセッションに消極的な自治体.      「宮城県の水道の持続性を考える」の資料より

 

今後20年後の宮城県の街というものを見据えて、どういう街を作っていく必要があって、そこにはどういうインフラが必要なのかが重要。

その議論に皆さんが参加する必要がある。

おいしい水・安い水に惹かれるだけの水の消費者にならず、自分たちでオーナーシップを持って水をきちんとマネージメントしていくんだと考えることが、宮城の水道を持続可能にしていく一番の近道。

その参考になるのが、パリ市水道の再公営化した後の公が主体となった経営改善。日本では「公は経営改善なんてできるわけがない、だから民間に任せるのが一番だ」という乱暴な論理が当たり前のように浸透している。パリ市では流域全体、水が流れてくる森林の状況、雨がどういう風に川に入ってくるか、そういったところも最適化しながら、水道事業をきちんと立て直していった。そこに住民の代表が議決権を持って参加している状況がある。

未来世代につけを回さない、宮城の未来につけを残さない。それにはいろいろな方法がある。広域化も一つの選択だし、施設を削減していくのも一つの選択。その議論の中に皆さんが入って、皆さんが決定に参加することがとても重要なこと。そのために、県はもっともっと皆さんとコミュニケーションをする努力をするべき。


基調講演Ⅱ 「PFIと水道事業民営化を考える」 尾林芳匡氏(弁護士)

水道法は、きれいな水、安い水を豊富に使えるということを保障する。

憲法25条1項に健康で文化的な生活という条文がある。生存権のために水は必要。

憲法25条2項の「国は社会保障その他公衆衛生の増進に努めなければならない。」は、国には公衆衛生を改善する責任があるという条文。

この憲法25条1項・2項に基づいて作られているのが水道法。水を供給する責任を国や自治体が果たすのは、憲法に基づく義務。従って、仮に、地方自治体の財政力や水道事業者の財政状況に応じて設備更新の困難な事業体があったら、そこに技術上財政上の支援をすることは、国の責任である

水は使う人が受益者だから、受益者が水道料金を負担して当然、地方自治体や水道事業体が設備更新にお金がかかれば水道料金の値上げは当然だと思う人がいるかもしれないが、公衆衛生の国の責任ということから考えると、例えばある地方自治体で非常に水道料金が高くなってしまって、その町では経済的に弱い立場の人たちが衛生的な水を使えなくなったとすると、歴史上のあちこちの経験として疫病が流行したりする。その疫病はその地方自治体にとどまらない。公衆衛生はひとたび壊れてしまえば、自治体の財政力がどうしたとか、何町に住んでいる人だとかにはとどまらないで、果てしなく広がっていく。こういうことがあるので、公衆衛生の増進を国の責任としている。財政上の理由から、国や自治体が水の供給を安く衛生的に豊富に行うという責任から逃げることは、本来許されない。

水道法は、国と地方自治体の責任を書き分けている。地方自治体は、地域の自然的社会的条件に応じた計画をきちんと立てて水道供給を実行する責任がある。町の事情やどこにどんな安くてきれいな水源があるかということを一番よく知っているのは、地方自治体である。ところが、高度成長期にしばしば、遠くの水源地に大きなダムを作って、過大な工業用水事業を見込んで、ランニングコストも更新設備の費用も大変なコストがかかるような図体の大きな水道網が作られた。そこで忘れられていたのは、地方自治体が、地域の自然的社会的条件を踏まえて一番ふさわしい水源を使って効率的に水道を供給するということ。国や広域的な都合を押し付けられた所で、水道料金の高騰が起きている。

水道法が国の責任としていることは、地方自治体や水道事業者に対して技術上財政上の支援をすること。今、国は、コンセッションにいくならば財政支援をするとして、財政面からコンセッションへ誘導しようとしているが、これは本来間違っている。憲法25条に従った国の責任を果たすためには、地方自治体がきちんと地元の自然状態に応じた水道計画を立案したものを、財政上支援しなければいけない。

水道料金が上がるとか、設備更新にコストがかかるということで、にわかにコンセッションに突き進むことが、いかに憲法や水道法の考え方の本来からかけ離れたことかがわかると思う。

 

なぜ、国と地方自治体が責任を持つべき水道事業について、かくも賑やかに企業に任せようという話が出てくるのか?

水道民営化は何のためか?水道事業を通じてお金儲けをしたい人たちがいるから、その人たちのお金儲けのためにコンセッションや民営化を進めようとしているだけで、市民のため、地方自治体のため、財政をよくするためといった目的は一切ない。

今回の水道法改正にあたって経済界からどのような意見要望が出されていたか?

① 三井住友銀行の2017年5月の「国内上下水道事業の現状と民間事業者の戦略の方向性」というレポートを見ると、かなり正直に書いている。

「公共事業が落ち込むなかで上下水道設備投資は下げ止まり更新需要増見込み」

一般的には、大きなダムを作る大きな道路を作るという公共事業の需要は地方自治体の財政難で見込めない中で、水道設備の更新だけは一定のものが見込める。自分たちの儲け口として残されている、と。

② みずほ総研のレポート「法改正が促す『水道事業』の戦略的見直し」には、「中長期的に水需要減少 経営効率高めるための民間事業者活用」とある。

水需要が減っていく中で民間企業が経営手腕を発揮することが必要だと言っている。

③ 大和総研のレポート「水道事業のコンセッション方式PFIをめぐる論点と考察」では、所有と経営の分離をして、大災害の時に設備を直す仕事はすべて地方自治体に責任を持って欲しい、運営は民間企業にやらせて欲しいという要望が述べられ、それらは、そのまま今回の法改正で実現している。

こういった経済界のレポートを見ると、自分たちの収益を確保するために水道を民間開放してほしいということを繰り返し繰り返し、法改正も含めて求めてきたということがわかる。

 

世界で進む水ビジネスと再公営化

世界の水道民営化の実態を見ると大変ひどいものがある。

フィリピンのマニラ市では民営化されて水道料金が4~5倍に跳ね上がった。

ボリビアコチャバンバ市では、雨水を使うことまで有料化され、耐えきれなくなった住民が暴動を起こした。

フランスのパリ市では料金高騰に加えて、水道を担当する企業がどこでどれだけ儲けているのかが極めて不透明で、再公営化された。

世界中で300に迫るこうした事例が報告されている。

 

このように世界では料金の高騰、水質悪化などが問題になっているのにもかかわらず、経済界からの提言を受け、2018年水道法改正で、コンセッション方式が極めて導入しやすくなった。

これまでも、水道法とPFI法を組み合わせて、水道事業を民間にやらせるということは法律的には可能だった。ただし、民間企業が水道事業の管理運営を担当するときには、その企業自身が水道事業者にならねばならず、厚生労働省の水道事業者にふさわしいかどうかの厳しい審査、認可を受けなければならなかった。

2018年の水道法改正の後は、安全性や事業者としての責任はすべて地方自治体が背負い続けるけれども、管理運営をしてお金儲けをする部分だけは、民間企業に運営権者として売り渡していいのだという仕組みが導入された。

大和総研のレポートが求めていた所有と経営の分離そのもの。

民間企業にとってはおいしいトコ取り、設備投資はしないでお金儲けが安定的にできる。

 

PFI(Private Finace Initiative)法とは

民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律

 

PFIの問題点

① 財政難のもとでも施設建設推進

② 自治体の関与と住民の立場の後退

③ 自治体と大企業の癒着の恐れ(長期間契約の莫大な利)

④ 事故等の損失の負担

 

PFIの問題事例

① 仙台松森PFI天井崩落事故

初めてPFI事業でごみの焼却熱を利用した温水プールが作られたが、最初の夏に、宮城県沖地震仙台市民数十名が重傷を負う事故が発生。民間企業に任せていたため、行政側は手抜き工事を発見でなかった。この事故の損害賠償が問題になり、PFIが信用を失ってはいけないということで、最終的に責任は行政が全部負担することになった。

民間任せにしていても、何か損害が発生した時には、すべて行政と住民の税金で培った財政によって責任を負担するのがPFI

② 福岡タラソ撤退

儲からないために民間企業が撤退し、福岡市民が3か月も温水プールで泳げなくなった。儲からなければ撤退するのが企業。 

③ 北九州・ひびきコンテナターミナル経営破綻し、北九州市が40億円で買い取る

④ 名古屋港イタリア村破産

⑤ 高知病院赤字・贈収賄事件・PFI解除

オリックスグループが経費を安くすると言って鳴り物入りで始めたが、予算8億円超過。

⑥ 滋賀・近江八幡市総合医療センターPFI解除・再直営

⑦ 野洲市立小・幼の維持管理契約のPFIが解除された途端、5億円も経費が安くなった

⑧ 岩見沢生涯学習センターPFI事業者が市長に多額の献金

 

 林芳正氏の提言

(1)「地域の条件の応じた計画」の視点をつらぬく

今回のみやぎ型のコンセッションは、工業用水が一番経営状態が悪くて、その工業用水の財務負担を、上水道、つまり市民の生存のための水の料金に負担をさせるという恐れが大きいもの。

生存のための市民の生きるための水と、商品としての工業用水、売り物として収益になるようなものとは、分けて論じなければいけない。それを一体化するということそれ自体が大問題。地域ごとの優れた水源をどこにしていくのかということを、町ごとにきちんと考えていくことから始めなければいけない。

(2)「産業化」ではなく公共部門の維持継承こそ

水は儲けの対象にすべきではない。

公共部門の維持継承こそ大事。

水道で働く職員の方たちには、「自分たちの後継者に当たるしっかりとした技術や情熱を持った職員を、引き続き県や市が採用を続けて育成をし、責任を持って県民のための水の将来ビジョンを描けるだけの職員の態勢を維持継続することを、住民の皆さんに、どうか自信を持って、もっと呼びかけていただきたい」とお願いしたい。

(3) 国の技術的財政的支援は「地域の条件に応じた計画」を支えるべき

国の技術的財政的支援は、地方自治体が作った地域の条件に応じた計画を、憲法25条と水道法に基づいて支援すべき。コンセッションにすれば少しお金が支援されるというようなやり方で誘導するのは全く邪道で、県民の判断を誤らせるものだ。

百害あって一利のないコンセッションにストップをかけるまで、宮城県民のみなさんが運動を強めていただけることを心から期待する。