宮城県の水道民営化問題

命の水を守るため、水道の情報公開を求めていきましょう!

みやぎ型管理運営方式は、投資家を儲けさせるためのもの?!

さて、みやぎ型管理運営方式(宮城県上工下水一体官民連携運営事業 )は、水道の課題解決のために導入されるのではないとしたら、なぜ急スピードで実現されようとしているのでしょう? その本当の目的はいったい何なのでしょう?

みやぎ型管理運営方式は、水道コンセッションの一つです。

2018年には、この水道コンセッション契約を急増させるため、PFI法と水道法が相次いで改正されました。

国がどういう意図で水道コンセッションを推し進めているのか、そのことがみやぎ型管理運営方式にどう影響しているのかを確認するには、この2つの法改正について見てみる必要があります。

 2018年PFI法改正                              (内閣府HPより)

ちなみに、PPPとは、Public Private Partnership( パブリック プライベート パートナーシップ)、つまり官民連携事業のことです。

PFIは、Private Finance Initiative(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の略です。公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法で、PPPの一つです。

コンセッションは、PFIの一つの形態です。

弁護士で新宿区議会議員の三雲崇正氏は、2018年のPFI法改正には次のような問題があると述べています。

 改正法15条の2によれば、公共施設等の管理者等(自治体等)やPPP/PFI事業を行い、又は行おうとする民間事業者は、内閣総理大臣に対し、PPP/PFI事業に関する国等の支援措置の内容やPPP/PFI事業に関する規制法等について問い合わせることができ、問い合わせを受けた内閣総理大臣は、問い合わせに対する回答を行い、さらに必要があれば助言も行うことができるとされる。

 これは、PPP/PFI事業を進めたいと考える自治体等だけでなく、民間事業者に対しても、国が支援を行うことを明記するものである。

 また、改正法第15条の3においては、内閣総理大臣は、PPP/PFI事業の適正かつ確実な実施を確保するために必要と認めるときは、公共施設等の管理者等(自治体等)に対し、実施方針に定めた事項その他特定事業の実施に関する事項について、報告を求め、または助言もしくは勧告をすることができるとされる。これにより、政府は、自治体によるPPP/PFI事業の実施に関連し、その進め方について報告を求め、助言や勧告を行うことができるようになる。

 この改正法15条の2及び3を組み合わせると、民間事業者が目を付けた公共施設のPFI化に関して内閣総理大臣に支援を求め、これを受けた内閣総理大臣自治体等に対してPFIの実施を求める方向で報告の徴収、助言及び勧告を行うことも可能になる。

 たとえば、民間事業者が、特定の公共施設をPFI案件化し、そこに参入したいと考えた場合、自治体が案件化をまったく検討せずに拒絶(無視)すれば、そのような対応がPFI法に照らして適切なのかといった問い合わせを改正法15条の2に基づき行うことが容易に予想される。

 (中略)

 このような問い合わせは、それ自体で自治体の自主的・自律的判断を損なう恐れがあることは言うまでもない。ましてや、改正法においては「問い合わせ」のレベルを超える「「報告の徴求」、「助言」、「勧告」が可能である。

 PPP/PFI事業が実施される自治体の施設の管理運営は、本来的には自治体が任務とする住民の福祉のために行う事務(当該団体固有の事務)であり、その内容につき国が報告を求め、法的拘束力がないとはいえ指図することができる状況は、「地方自治の本旨」(憲法92条。特に「団体自治」の理念)や「財務管理権」(憲法94条)に照らして異常と言わざるを得ない。

 

(「安易な民営化のつけはどこに 先進国に広がる再公営化の動き」イマジン出版 ©2018 181~184ページ) 

 

水道法改正の経緯については、一般社団法人全水道会館水情報センター事務局長の辻谷貴文氏が次のように述べています。

 PFI/コンセッション方式は、民間からの資金調達・投資で主導する事業運営手法である。したがって融資・投資事業として、必ず利潤・配当が得られる環境整備が前提とされなければならない。

 しかし、「清浄・豊富・低廉」な水を地域住民に供給する水道事業は、渇水水質汚染、災害時の応急対応や復旧をはじめ、水量・水質、経営に関わる技術的・財政的なリスクに応じた対策も避けることはできない。

 水道はそもそも収益性に乏しい。それらのリスクを真剣に考えれば、その収益性に乏しいはずの水道事業が、なぜいま「民間活力」「民間資金」の行き先となるのか、民間企業や金融資本が「儲かる」事業として見定めるのかを考察する。

(中略)

 安倍政権発足後の平成25年(2013年)、経済財政諮問会議が答申し閣議決定された「骨太の方針」や「日本再興戦略」に、水道・下水道事業へのコンセッション導入が盛り込まれ、その後、安倍政権のもとで政府は、PFI法でも「企業が活躍しやすい」環境を整備するための改定を重ねた。「公共サービス・資産の民間開放」「公共サービスの産業化」を政策として、民間企業や金融機関・投資家の参画を支援する施策としてPFI/コンセッションが推進されてきたのである。

 「コンセッション方式は、インフラ関連企業や投資家にとって大きな新規ビジネスチャンスとなる成長戦略の柱の1つ」(2014年5月「コンセッション制度の利活用を通じた成長戦略の加速」経済財政諮問会議産業競争力会議・立地競争力等フォローアップ分科会/竹中平蔵)などの議事録を見れば、その本質が良くわかる。

 そのために、いわば水道事業で儲かるように、政府はこの5年間、水道事業を民間企業が運営し、金融機関や投資家が融資・投資を行い、利潤・配当を含めた収入を水道料金から回収するために環境を整え、「大きな新規のビジネスチャンス」への支援を続けてきた。平成30年(2018年)の改正PFI法とコンセッション導入を盛り込んだ水道法改正案は、この5年間の支援施策が仕上げの段階に入ることを意味している。

 

(「安易な民営化のつけはどこに 先進国に広がる再公営化の動き」イマジン出版 ©2018 200~202ページ) 

 

辻谷氏は、水道法改正で水道法上の責任を民間企業が負わなくてもよくすることによって、政府は水道民営化を強力に後押ししたと言います。

 水道事業のコンセッションでは、自治体が水道事業の認可を受けたまま。民間企業は事業認可は取得しない。「施設所有が自治体に残る」というよりも、正しくは「事業認可が自治体に残る」経営手法が水道事業のコンセッションであり、今回の水道法改正案の最重要ポイントといえる。

 自治体が「事業認可を取得し水道法上の法的な責任を負う」ことと、民間企業が「水道料金を直接収受して水道サービスを実施する」ことを一体とする事業経営が可能となるのである。

(中略)

 もともと現行水道法上であっても、事業認可を受けその義務と責任を負うのであれば、民間企業を事業者とする水道は可能である。

 しかし、民営水道では、水道法上の法的責任を負うことと、将来にわたる事業の遂行や災害時の対応、復旧の責任を負うことなどは、経営にとって大きなリスクとなり、これが日本において水道民営化が進まなかった最大の理由である。

 

(「安易な民営化のつけはどこに 先進国に広がる再公営化の動き」イマジン出版 ©2018 202~203ページ) 

注)太字は当ブログ筆者が施しました。

つまり、水道コンセッションは、水道事業を民間企業が運営することによって、金融機関や投資家が融資・投資を行い、利潤・配当を含めた収入を水道料金から回収する「大きな新規のビジネスチャンス」を作るためにあるのです。

その際、民間企業が経営リスクを抱え込まなくてもいいように、水道法上の責任は自治体が引き受ける=住民の税金で賄う仕組みです。

長年税金をつぎ込んで築き上げてきた水道システムを使って運営権者である民間企業と投資家が儲けられるように、災害復旧や水道管路の更新などの巨額の費用は住民の税金で支えていくというあまりにも理不尽な話です。

辻谷氏は、民間企業ならではの新たなコストが水道料金に上乗せされることに対して大きな危惧を表明しています。  

これまでの水道法の施行規則の規定では、水道料金の額は各自治体で総括原価方式によって決定される。この場合の原価は、人件費、動力費、修繕費、受水費、減価償却費等に支払利息と資産維持費を基礎としている。地方公営業法でも 料金は「公正妥当」でなければならないとされ、公営事業であるので料金に利潤・配当は含まないことが前提である。  しかし、コンセッションでは、水道料金の原価が見直され、水道法改正案が成立して今後施行規則も改定されることになるが、そうなるとコンセッション事業者と融資・投資家の儲けや配当が水道料金の原価として算定されることになるのである。 (中略)  自治体には利潤・配当そのものを抑制する手立てはなく、コンセッションは、自治体と儲けの最大化が目的の民間企業との間で、水道料金の水準設定をめぐり対立する構図を、公営企業の中に持ち込むのである。運営権事業を行う企業の資金調達によっては、「モノ言う株主」も現れることが予想される。利益の最大化を求められる企業は、そのしわ寄せをどこに持っていくかは明白である。

 

(「安易な民営化のつけはどこに 先進国に広がる再公営化の動き」イマジン出版 ©2018 205~206ページ) 

 

それでも宮城県は、「水道料金は県議会で条例を改正しなければ改定できないから、民間事業者が勝手に決めるわけではない。」と下図のように説明します。

 

f:id:MRP01:20190430195834j:plain         (「これからの 『みやぎの水道・下水道』 を考えよう!」より)

しかし、あの竹中平蔵氏が提唱する大きな新規ビジネスで、お友達への利益誘導で有名な安倍総理が民間からの問い合わせにも回答し、進捗が悪ければ自治体に報告を求め、助言や勧告さえするという後ろ盾がある民間企業に対して、宮城県はどこまで対等に交渉できるでしょうか?

村井知事は「政府主催の『未来投資会議』で、課題であった水道法の改正などについて安倍首相にお願いした」(「第1回「宮城県上工下水一体官民連携運営検討会」議事録)と得々と挨拶するほどコンセッションに前のめりの勢いですし、宮城県議会の圧倒的多数を占める自民党会派は、村井知事の盲目的応援団で、村井知事の政策に異議を唱えたことはかつて一度もありません。県議会が水道料金を適正にコントロールできる見通しなど全くないのです。

加えて、みやぎ型管理運営方式で20年のコンセッション契約をしてしまった後で、大変な事態に気づき途中解約しようとすれば、宮城県は諸外国の例のように運営権者から莫大な損害賠償請求をされる可能性だってあるのです。「やってみなければわからない」などと悠長なことを言っている場合ではありません。