「上工下水一体官民連携運営事業『みやぎ型管理運営方式』について」より
このイメージ図を見せられたら、
「ふうん、みやぎ型管理運営方式にすると、水道料金が1割抑えられるのか。
それって、いいかも」
なんて思ってしまいますよね。
でも、本当にそうでしょうか?
まずは、宮城県の言い分を確認してみましょう。
「上工下水一体官民連携運営事業『みやぎ型管理運営方式』について」より
上図の水色の部分のように、みやぎ型管理運営方式では、水道の運転管理費と関係する設備の維持管理・更新費用は運営権者が負担します。それに、宮城県が担当する水道管路の維持管理・更新費と、運営権者の利益を加えたものが、水道料金として請求されることになります。
すべてを宮城県が担っている現状より、コスト削減ができる理由として3つ挙げられています。
・IoTやAI等の新技術を活用した施設の運転経費削減
・一括・長期契約による薬品・資材の調達経費削減
・同種一括契約による設備等の更新投資削減
「『みやぎ型管理運営方式』について」より
IoTやAI等の新技術を活用した施設の運転経費削減というのが、
・ITを活用して自動化を図り少人数で管理する
・最適最新のソフトを安く導入する
ことならば、公営でもやっていけばよいのではないでしょうか。
民間企業でなければ、それがどうしてもできないという理由が今ひとつわかりません。
確かに、事務作業におけるPCの導入が民間企業から始まり、役所は長らく紙の書類でしか事務ができなかったという過去の事例はありますが、だからと言って、来たるべきIoTやAIの時代に、同様の轍を踏まなくてはいけないということはないでしょう。
一括・長期契約による薬品・資材の調達費削減と同種一括契約による設備等の更新投資削減については、「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」(17ページ)で以下のように述べられています。
もし、公営のまま上工下水一体管理運営にしたとしても、公共調達及び仕様発注を前提とせざるを得ないので、現行よりも0.4%しかコストは削減されないというのです。
これに対しては、宮城県議会議員 岸田清実氏が疑義を表明しています。
この現行方式の計算は、スケールメリットを十分反映したものなのかは不透明である。しかもコンセッションの検討に入ってから後付けで計算したものだ。コンセッション方式と同様に一体化、広域化しスケールメリットを十分反映した上で比較するのが妥当である。県民の理解を得ることが重要だと考えるならば必要な比較はしっかり経ることが重要だ。
(「『上工下水一体官民連携運営事業』(みやぎ型運営方式)の是非を問うシンポジウム」の資料17ページ)
宮城県の説明をさらに理解するためには、私たちはVFM(バリュー・フォー・マネー)という概念を学ばなければならないようです。
「宮城県上工下水一体官民連携運営事業 『みやぎ型管理運営方式』について」より
みやぎ型管理運営方式を20年間続けると、総事業費は現状の公営に比べてどれだけ削減されるのかを示す割合のことを、VFM(バリュー・フォー・マネー)というのですね。
「宮城県上工下水一体官民連携運営事業 『みやぎ型管理運営方式』について」より
そのVFM(バリュー・フォー・マネー)を、運営権者の人件費、経費(動力費、修繕費、薬品費、管理費等)、建設改良費について関係企業35社に聞き取り調査して計算すると、みやぎ型管理運営方式のほうが166億円~386億円コストを削減でき、割合としては7.4%~14.4%減であり、現状の公営よりも約1割水道料金を抑えられるという結論が、冒頭のイメージ図の根拠となっています。
ですが上図の解説には、関係企業35社に聞き取り調査をして各費目の削減率を決めたと書いてあるだけで、それがそんなに信頼性のある根拠なのか? という疑念がぬぐい切れません。
それは、次のような素朴な疑問に答えていないからです。
① 民間企業が調達する資金には、今より高い利子を払わなければならないのでは?
② 民間企業の役員報酬や株主配当の分、水道料金が高くなるのでは?
③ 資材の調達や工事を関連企業に発注するので、割高になるのでは?
順に考えてみましょう。
① 民間企業が調達する資金には、今より高い利子を払わなければならないのでは?
Q3ー6 県の企業債が減少する一方で、運営権者が調達する金利は企業債より高いため、水道料金で支払う利子がより高率のものになり、メリットはないのではないか?
(中略)
事業運営のために必要となる資金は運営権者自らの判断により調達することから、運営権者の資金調達金利は、県が発行する企業債金利とは、本質的にベースが異なっているため、それぞれを単純に比較することはできないものと考えています。
なお、運営権設定に伴い、県の企業債発行額が減少することは、借入利息の負担軽減につながることから、確実に県民のメリットになるものと考えています。
(中略)
「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」(14ページ)
「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」では、民間企業は経費を削減するはずだという前提での解説しか述べられていません。
宮城県議会議員 岸田清実氏は、この支払利子に対して異論を述べています。
県はコンセッション方式のメリットとして設備更新に対する五百七十億円の民間投資によってこの分の企業債発行を抑制できると説明してきた。企業債は主に政府債、地方公共団体金融機構債、縁故債として引き受けられ、その金利は民間投資のリターンより低くなっている。2017年度の政府債は二十五年償還で0.5%、機構債が二十年償還で0.3%、縁故債が十五年償還で0.25%である。
一方、投資市場にインフラファンドという分野がある。PFI法に規定する道路、鉄道、港湾、空港、上下水道等の公共施設の運営権などに投資するもので、東京証券取引所に上場するこの分野の四つのファンドの利回りは5.57~6.39%になる。今回のみやぎ型管理運営方式では設備更新などの資金確保に係る資金で計算している利回りは銀行等の融資で2%、投資で3%である。その他に特定目的会社の出資に対する配当3%となっている。いずれにしても企業債の発行と比較すればかなりの高率になることが予想される。企業債発行分が民間投資に置き換わるとすれば、水道料金で支払う利子がより高率のものになるということである。民間投資による企業債の減少は県民にとって決してメリットではない。
(「『上工下水一体官民連携運営事業』(みやぎ型運営方式)の是非を問うシンポジウム」の資料19ページ)
注)太字は当ブログ筆者が施しました。
② 民間企業の役員報酬や株主配当の分、水道料金が高くなるのでは?
Q3ー7 運営権者が過大な役員報酬や株主配当を行い、将来の水道料金の値上げにつながるのではないか?
運転管理業務や設備更新等請負工事の受託業者・請負業者の財務状況や役員報酬、株主配当等は、現在の契約においても、実際にどの程度支出したのか、発注者は確認していないことから、役員報酬や株主配当等については、現在の公共調達においても把握しておりません。
「みやぎ型管理運営方式」において、運営権者が性能発注に基づき行う維持管理業務や設備更新工事等の契約は、運営権者の裁量により調達先を選定する民間事業者間の契約行為であり、要求水準を満たしている限り役員報酬や株主配当等を必ずしも把握する必要はないと考えていますが、運営権者の財務状況等については、内閣府で示している公共施設等運営事業に関するガイドライン等(※)に基づきモニタリングを行い、その結果を公表することとなるため、むしろこれまでよりも、民間事業者の財務状況等を適正に把握することができると考えています。
「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」(15ページ)
この運営権者の役員報酬、株主配当等に関する「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」の解説は、2つのことを意図的に隠しています。
岸田清実氏は、
これまでの仕様発注では仕様書作成の段階で受注企業の役員報酬、従業員給与、税金負担分、株主配当金などは一般管理費として工事原価とは別に積算基準に明示されている。例えば水道施設整備費では「水道事業実務必携平成二十九年度版」で、ある前提のもとに五百万円以下の場合は工事原価に20.29%を乗じたものとされ、さらに工事金額の大きさによってそれぞれ割合が規定される。全国共通の基準をもとに県職員の仕様書作成というチェックを経て請負工事費における役員報酬等の総額が設定されている。一方コンセッション方式に移行し、性能発注になった場合には請負工事費の積算は運営権者に任されることになり、維持管理、設備更新の発注での請負工事費における役員報酬・株主配当等の適正性は確保されるのか、そしてそれはどのように透明化されるのかが明らかにされていない。
(「『上工下水一体官民連携運営事業』(みやぎ型運営方式)の是非を問うシンポジウム」の資料18ページ)
と言います。
つまり、「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」 の「役員報酬や株主配当等については、現在の公共調達においても把握しておりません。」という記述は、「全国共通の基準をもとに県職員の仕様書作成というチェックを経て請負工事費における役員報酬の総額が設定されている」現状にあえて触れないことによって、みやぎ型管理運営方式において役員報酬や株主配当等を把握しないことを正当化しようとしているのです。
また、モニタリングに関するガイドライン(内閣府HP)を読むと、
PFI事業は、基本方針においても「特定事業の発案から事業の終結に至る全過程を通じて透明性が確保されなければならない(透明性の原則)」 とされている。管理者等は、当該選定事業の実施に係る透明性を確保するため、モニタリング等の結果について、住民等に対し積極的に公表することが必要である。また、選定事業者の業務に対する取組意欲を喚起するためにも、モニタリング等の結果を公表することが必要である。ただし、公表することにより民間事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある事項については、あらかじめPFI事業契約等で合意の上、これを除いて公表することが必要である。
(モニタリングに関するガイドライン 29ページhttps://www8.cao.go.jp/pfi/hourei/guideline/pdf/monitoring_guideline.pdf )
とあります。
注)太字は当ブログ筆者が施しました。
「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」の解説は、運営権者の利益を害するおそれがある事項ということにすれば、知らせたくないことは公表しなくてよいというモニタリングに関するガイドライン(内閣府)の記述を省略して紹介することによって、「モニタリングを行い、その結果を公表することとなるため、むしろこれまでよりも、民間事業者の財務状況等を適正に把握することができる」と、あたかも今よりも透明性が増すかのような印象を与えています。
けれども、モニタリング結果が公表されても、役員報酬や株主配当のせいで水道料金が上がっていないかどうか、住民は確認できなくなる可能性だって大いにあることが、モニタリングに関するガイドライン(内閣府)を読むとわかるのです。
③ 資材の調達や工事を関連企業に発注するので、割高になるのでは?
Q3ー8 運営権者の発注は関連会社が優先となり、競争性が確保されないのではないか。また、納入製品の単価の妥当性はどう担保するのか?
「みやぎ型管理運営方式」では、運営権者の業務範囲における調達先の選定や納入製品単価の決定については、運営権者の裁量として実施されることになります。
運営権者は、県が決定した按分率による収入の範囲内で、施設の運転経費や薬品・資材の調達経費及び設備の更新投資などについて、トータルコストの削減が図られるよう、最も合理的な運営を行うものと考えています。
「みやぎ型管理運営方式 『Q&A』」(15ページ)
これではもう理屈も何もありませんね。
「運営権者の裁量を全面的に信用します!!」宣言をしているだけです。
結局、「みやぎ型管理運営方式にすると、水道料金が1割抑制できる」という宮城県の主張は、あいまいな根拠や不確定要素に目をつむって作り出した「こうだったらいいなあ」という幻想にすぎないのではないでしょうか。残念ながら、そう判断せざるを得ないと思います。
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